プロ通算219勝を挙げ、現在は野球解説者として活躍中の山本昌さん。32年間にわたって中日のユニフォームを着て、50歳まで現役生活を続けたレジェンドは、好投手が多かったと言われる今夏の甲子園大会をどのように見ていたのか? ドラフト上位候補から意外な伏兵まで、11人の投手について語ってもらった。

今井達也(栃木・作新学院/180cm・72kg/右投右打/優勝)

甲子園での活躍をテレビで見ていました。素晴らしいピッチャーが現れましたね。体の線は細くても腕の振りがしなやかで、しかも強く振ることができるから球の走りがすごくいい。まだ高校生なのにコントロールもいいし、十分に上でやれるだけのものがあると思います。あえて気になる点を挙げるなら、ボールがシュート回転することが多いので、どうしても甘いコースに入ってきてしまうこと。この課題を上の世界でどう修正できるかが、活躍のカギになるのではないでしょうか。

●寺島成輝(大阪・履正社/183cm・85kg/左投左打/3回戦敗退)

大会前から「BIG3」と呼ばれていましたが、噂通りの実力の持ち主だと思いました。ボールが出てくる角度がすごくいいですよね。耳の近くから腕が出て、真上から振れる。バッター側から見て、ピッチャーが投げる際に使う空間の幅のことを僕らは「ライン」と呼ぶのですが、寺島くんはラインが非常に狭い。ラインが狭いと体内のパワーをまとめやすいし、コントロールがつきやすいんです。疲れてくると少し顔が上を向いて高めに抜けるボールが増えるので、今後改善していってほしいですね。

●藤平尚真(神奈川・横浜/185cm・83kg/右投右打/2回戦敗退)

彼も「BIG3」のひとりですが、すごく力のあるボールを投げ込みますし、当然ドラフト1位候補になるでしょう。大谷翔平投手(日本ハム)のような迫力を感じます。少し気になっているのは、体重移動を始める際に軸足を折ること。フォームの流れの中で自然にヒザが曲がるのならいいのですが、自ら曲げているため、体重移動の勢いを自分で殺してしまっているように見えます。それでも、これだけのボールを投げているのですから、今後が楽しみです。

●高橋昂也(埼玉・花咲徳栄/181cm・83kg/左投左打/3回戦敗退)

「BIG3」の中でこの投手こそ、最も大きな伸びしろを秘めていると言えるかもしれません。体の使い方がやや硬く、全身を十分に使えていない今の段階でこれだけ速いボール(最速152キロ)を投げられて、試合を作る能力があるわけですからね。もっと体重移動がスムーズにできるようになって、肩を回して投げられるようになれば、とてつもないボールを投げる可能性があります。

●早川隆久(千葉・木更津総合/180cm・73kg/左投左打/ベスト8)

石川雅規投手(ヤクルト)のように、試合を作るのが上手な投手になりそうですね。驚くようなスピードはなくても、ボールにキレがあるし、どんな球種でもストライクが取れるコントロールもあります。長いイニングをまとめる力がある、「勝てる投手」です。淡々と投げる姿もまたいいですね。大学志望のようですが、4年後にはドラフト上位でプロに進める可能性を持った好投手だと思います。

●堀瑞輝(広島・広島新庄/177cm・72kg/左投左打/3回戦敗退)

プロに行ったら、意外とこういう投手が早く出てくるかもしれません。サイド気味の角度から全力で腕を振って、左バッターにとっては背中越しのすごく嫌なところからボールが出てくる。プロでは先発で長いイニングを投げるというよりも、リリーフとして三振が取れるタイプのサウスポーになりそうです。リリーフならプロで即戦力としてやれるくらいのキレを感じます。

●高田萌生(岡山・創志学園/178cm・75kg/右投右打/2回戦敗退)

松坂大輔投手(ソフトバンク)のフォームを参考にしているそうですね。甲子園では打ち込まれてしまいましたが、最速154キロ、常時140キロ台後半が出るだけで十分ドラフト候補。自信を持っていいと思います。やや左ヒザが立ちぎみなせいか、タテ系の変化球がよく曲がる印象です。作新学院の今井くんと同様にシュート回転が気になりますが、体を作っていきながら徐々に直していけばいい。素晴らしい素材だと思います。

●藤嶋健人(愛知・東邦/175cm・78kg/右投右打/3回戦敗退)

甲子園では右ヒジに張りがあって、投手としては本調子ではなかったそうですね。それ以上に右中間スタンドに放り込んだホームランを見てしまっているので、打者として評価したくなるところです。ただし、あれだけ体の力があれば、投手としても伸びしろがあるのかなと感じます。縦の大きいカーブという武器もありますし、あとは腕を強く振れるようになるか。上のレベルでも楽しみな投手です。

●アドゥワ誠(愛媛・松山聖陵/196cm・86kg/右投右打/2回戦敗退)

まだまだ成長の余地がある未完の大器でしょう。フォーム面など課題を挙げればいっぱいありますが、他の投手にはない上背からの角度と縦に大きく曲がるカーブ系の変化球は魅力十分。完成すれば超A級の投手になれるでしょう。まだ指にしっかりと掛かっていないボールが多いですが、僕は上から叩ける投手はコントロールが良くなると思っているので、大きく成長する可能性を感じています。

●京山将弥(滋賀・近江/183cm・72kg/右投右打/1回戦)

このピッチャーの存在を知らなかったのですが、一目見て「いいピッチャーだなぁ」と思いました。投手らしい体型をしていて、スピードのある腕の振りがすごくいい。ボールにキレがあり、伸びてくるような球筋は僕の好みです(笑)。甲子園では流れが悪く打ち込まれてしまいましたが、プロを十分望める高い潜在能力を持っています。

●鈴木昭汰(茨城・常総学院/176cm・77kg/左投左打/ベスト8)

スピードガンの数値は130キロ台ばかりですが、プロでもやれる可能性を持った「勝てる投手」です。コントロールが良く、変化球でもストライクが取れる。中学時代からU-15日本代表だったそうですが、その経験と自覚がピッチングににじみ出ています。球速がないといっても、今の段階で僕のプロ時代よりも速いですしね(笑)。プロの練習で体が大きくなってスピードが出てくれば、さらに大化けするかもしれませんよ。

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 以上、11投手について語らせていただきました。

 これは僕の持論なのですが、結局は「上のレベルに行って、どれだけ伸びるか?」がすべてです。プロに入れば横一線、アマチュア時代の実績など関係ありません。プロでの練習や環境に慣れることができれば、どの投手がスーパーエースになってもおかしくありません。僕は今回挙げた投手の中から、いずれプロで2ケタ勝てる投手も何人か出てくると思います。

 もし自分が監督として誰か一人指名できるとすれば? そうですね......、藤平くんか寺島くんかな。藤平くんの潜在能力の高さ、寺島くんの先述したようなラインの使い方は素晴らしいものがありますからね。

菊地高弘●構成 text by Kikuchi Takahiro