「歌ってみた」「踊ってみた」などネットでの活動からデビューするアーティストも珍しくない昨今、ニコニコ動画の超人気シンガーとして話題の96猫が、ついにメジャーデビューをすることになった。ニコニコ動画とYouTubeの動画累計再生数が1億回を超える彼女は、どのようにして歌を歌い始めたのか。最新作『Crimson Stain』について、メジャーデビューへの思い、猫好きになった幼少期の可愛らしいエピソードを含め、これまでの半生を振り返るロングインタビューを行った。

取材・文/照沼健太 デザイン/ないとうはなこ

歌うことは大好き!…でも、隠れて歌っていた。



――きょうはインタビューを通して、現在の96猫さんを作ったルーツに迫りたいと思います。小さい頃は、どんな子どもでしたか?

男の子の友だちが多くて、ずっと外で遊んでるような子どもでした。自転車ですごく遠くまで行って「ここで秘密基地を作るぞ!」「わかった!たわしで壁を作ろう!」って、なけなしのお小遣いでたわしを大量に買った思い出が…(笑)

――たわしで壁を?(笑)

触るとトゲトゲしてて痛いから誰も近づかなくなる→秘密基地にピッタリ!と思ったのかな…? でも、秘密基地を作った次の日に雨が降って、その翌日に見に行ったら、たわしがぶわーっと散らかってたんですよ。「ここにたわしを散らかしたのは誰だ!」って怒られて、片付けて帰りました(笑)。

――音楽に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか?

小学2年生くらいの頃ですね。浜崎あゆみさんやBoAさんの曲を流しながらずっと歌ってました。

――聴くことよりは、歌うことが好きだったんですね。

そうなんです。CDはインスト(ボーカルの入っていない楽曲)が入っているものしか買っていなかったですね。

――その歌を誰かに聴かせたりは…?

いえ、恥ずかしいので家でコソコソ歌ってたり、誰もいなくなった夕暮れの公園でブランコに乗りながら小声で歌ったりしてました(笑)。家族は気付いてたんでしょうけど、気を使って知らないフリをしてくれていました。

――友だちとカラオケに行ったりとか、文化祭でステージに立ったりとか、みんなの前で歌う機会はありませんでした?

中学生になると、学校帰りにしょっちゅうカラオケ屋さんに行くようになりました。近所にお好み焼き屋さんがあったので、そこでお好み焼きを買って持ち込んで……これって不良ですか?(笑)

――不良…じゃないと思います(笑)。

友だちには「タンバリンを叩いているほうがいいよ」と言われ、ずっとタンバリン担当でしたが。バラード曲でもお構いなしに叩いてましたね(笑)。

声優オーディションに合格するも…大泣きした日。



――その頃から歌手になりたいという思いはあったんですか?

なかったです。その頃は声優になりたいと思っていました。

――声優志望だったんですね!

中2のときに声優のオーディションを友だちと一緒に受けて、友だちは落ちちゃったんですけど私は合格したんですよ。

――おぉ!

でも、すぐに声優になれるわけじゃなく、声優の養成所に安く入れるという案内で。うちは母子家庭で、生活がそこそこ苦しいのもわかっていたので、10万円という入学金を払うのは無理だと思って、紙を破って捨てたんです。

――そうなんですね…。

そしたら母が、そのビリビリの合格通知をゴミ箱から拾って、テープで貼ってくっつけて「ごめんね」という手紙と一緒に、私の机に置いてくれていて…。あのときは涙が止まりませんでしたね。

――2006年にニコニコ動画の「歌ってみた」に投稿を始めたキッカケは?

もともとは小学校の高学年のときに、セリフお題サイトというのがあって、お題となるセリフを読んで投稿していたんです。

――声優を目指すなかで自然と投稿していたんですね。

はい、そのうちボイスブログというものができたんですけど、そこで人気のある方が歌も歌っていて、自分もやってみたいなと。そこに投稿したのが最初で、友だちに「ニコニコ動画っていうのがあるよ」と教えてもらってからは、そっちに移行していきました。

――移行していった理由はあるんですか?

ボイスブログは続けているうちに友だちができて、みんな「上手いね」って言ってくれるんです、下手だったとしても。だけど私は、「自分のダメな部分を教えてほしい」という気持ちが強くて。ニコニコ動画では、「下手くそ」と言われまくりました(笑)。

――えー…

負けず嫌いな性格なので、すごく悔しくて、一日中歌って練習していました。そのうちに「ちょっとはマシになったな」と言われるようになりました(笑)。

――色っぽい女性の声から少年のような声まで、楽曲ごとに声色を使い分けるところは96猫さんの強みだと思いますが、どうやって習得されたんですか?

昔からモノマネが好きだったんですよ。道端でティッシュを配ってるお姉さんから、テレビCMのジングル、板東英二さんまで。「どうすれば近づけるんだろう?」と練習していたら、いつのまにかいろんなキャラが生まれていました。

――モノマネは友だちを笑わせるためにやっていたんですか?

いえ、至ってマジメに、本物に似せることを追求していました(笑)。

――96猫さん、エンターテイナーですよね…!

ニコニコ動画でも、最初に私に興味を持ってくれた人のほとんどは、歌じゃなくてネタを好きになってくれたんだと思ってます。「この人、変なことをしているな」「面白いから見てみるか」って。私自身も、どうやればみんなを笑わせられるかってことばかり考えてましたね。その頃は「歌で心を動かしたい」という思いはなかったんです。