皆さんはハーマンと聞いて何を思い浮かべるでしょうか。JBLのイヤホン、ハーマン・カードンのスピーカー、はたまた車載オーディオでしょうか。ハーマンは世界25か国に拠点を置く大手オーディオメーカーですが、今彼らが注力しているのは意外にも「コネクテッド・カー」なのです。

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ハーマンの事業領域は次の4つに分かれています。「ライフスタイルオーディオ部門」「コネクテッドカー部門」「コネクテッドサービス部門」「プロフェッショナル・ソリューション部門」です。

この中で一番の稼ぎ頭はどこでしょう。民生用イヤホンやスピーカーなどを扱うライフスタイルオーディオ部門でしょうか、はたまた劇場や映画館向けのプロ用の音響機器を扱うプロフェッショナルソリューション部門でしょうか。実は意外でありますが、ハーマンで最も売上が多いのはそのいずれでもない「コネクテッド・カー部門」なのです。過去12か月間の売上高は約3300億円に達するとしています。

▲コネクテッド・カー部門が売上1位

▲ハーマンが海外で展開するインフォテイメント製品

これは、自動車向けのインフォテイメント製品市場でハーマンが高いシェアを誇るためです。インフォテイメント製品とは、簡単に表現すれば高機能なカーナビです。車内で音楽や映像を楽しんだり、ナビゲーション機能を利用したり、インターネットに繋いだり、スマートフォンと連携してハンズフリー通話ができます。アップルの「Car Play」もインフォテイメントシステムの一種です。ハーマンは海外で早くからインフォテイメント製品を製造・販売していました。

買収で優秀なエンジニア集団を獲得

このようにインフォテイメントに強みを持つハーマンですが、コネクテッド・カー時代の本格到来に向けてIoT・ICT分野での体制を強化しています。2015年には2つのIT企業「シンフォニー・テレカ」と「レッドベンド」を買収。これをきっかけに、従来のインフォテイメント部門を、現在の「コネクテッド・カー部門」へと名称変更しました。

もともとカーディオで自動車メーカーと強い繋がりを持つハーマンは、2社の買収により『非常に優秀なIT技術者集団を迎え入れることができ、オートモーティブのサプライヤーとしては珍しい、本当のITグループと話ができる体制を構築できた』と胸を張ります。

そんなハーマンがいま取り組んでいるのが、従来のインフォテイメント製品を一歩進め、コネクテッド・カーや自動運転を包含した概念「LIVS(Life Enhancing Intelligent Vehicke Solution)」です。自動車がクラウドサーバーに繋がり、車載の360°カメラがクルマの周囲を常にモニタリングして安全を確保。iPhoneのSiriのようにパーソナルアシスタントに話しかけるだけで、クルマが自動運転で目的地まで連れて行ってくれる、まさに未来のクルマです。

自動車にもスマホのOTA技術が重要なワケ

上記のようにスマート化が進展すると、自動車はまさに「ソフトウェアの塊」と化します。ところが複雑化したソフトウェアには不具合が付きものです。これにどう対処するのでしょうか。

そこに、スマートフォンで実績のあるOTA(Over the Air)技術が役立ちます。これを簡単に説明すると、iPhoneがケーブルに繋がずにソフトウェアを更新できるように、自動車もWi-Fiやモバイル回線を使って内蔵ソフトウェアを更新できるようになるというわけです。これにより、スマホのような頻繁な機能追加が可能になるだけでなく、ソフトウェアに不具合が発生しても自動車をディーラーに持ち込む必要が無いために、サポートコストも削減できます。ハーマンが2015年に買収したレッドベンドはこのOTAバージョンアップ技術で高い実績を誇ります。

ただ、ネットワーク経由のソフトウェア更新には課題もあります。外部からの攻撃に脆弱なのです。最悪のケースでは、自動車にとって致命的なブレーキやハンドル・アクセルを悪意ある者にハックされる恐れもあります。そこでハーマンは、多層セキュリティ技術を保有するイスラエル企業 Towersecを買収。これにより、コネクテッド・カー時代におけるセキュリティ技術も手中に収めています。

▲ひとつの基板上で2つの異なるOSを動作させるデモ

▲スマート化が進む自動車は「ソフトウェアの塊」に

▲マイクロソフトやGoogle、Intelといった名だたる企業とのパートナー関係

▲LIVSはAndroid Auto、CarPlay、MirrorLink、Baidu CarLifeなどに対応

▲「ハーマンなら高度なオーディオと一体化したソリューションも提供できる」と主張する

このように、ハーマンは単なるオーディオーメーカーに留まらない技術力を背景に、コネクテッド・カーや自動運転の実現に向けて技術開発を進めています。もちろん、これらの技術は自動車だけでなくIoTの文脈で語られる多くの領域をカバーする可能性を秘めています。オーディオのイメージが強いハーマンですが、今後はコネクテッドの分野の注目度が高まりそうです。