もう一つは、今の人民元の為替制度は、中国の製造業にとっては、国の補助金のような役割を果たしており、大量の労働者の雇用を確保する手段になっている。つまり、中国の産業は労働集約型のままのため、労働者一人当たりの生産高も低く、労働生産性が伸びない原因になっているという。生産性が伸びない限り、10年先、あるいは20年先の中国経済の成長は期待できないことを意味しており、中国人の生活水準も上昇しない。グリーンスパン議長は、「もし、人民元が上昇し始めれば、資本をより効率の高い分野に移し、生産性も高まる。人民元のレートを固定し続ければ、数十年後の中国の成長は望めない」と指摘する。
ただ、市場では、中国はマイペースで人民元改革を行うだろうという見方がある。中国の温家宝首相も3月中旬の全人代で、人民元の柔軟化には着実に取り組んでいると強調する一方で、「人民元の切り上げによって、実際にどんな問題が発生するか深く考えないのは大変、無責任だ」と急激な変化には慎重だ。中国は金融システムの脆弱性という問題を依然、抱えており、最近も中国国務院が国営の中国商工銀行の自己資本比率を高めるため、外貨準備から150億ドル(約1兆6000億円)もの資金を同行に注入する計画であることが明らかになったように、安い人民元を維持して輸出を伸ばし、外貨準備を増やす必要があるのだ。
また、対米関係では、中国からの繊維・衣料品輸出の急増が米国の貿易赤字を悪化させている大きな原因になっている一方で、中国が対米輸出で得た外貨準備で、米国債などドル建て資産を大量に購入することで、米国の長期金利が低下し、住宅ローン金利も低く維持されているメリットもある。また、人民元の切り上げによって、仮に40%も人民元の通貨価値が上昇すると、中国の鉄鉱石の輸入コストが現在、1トン当たり60ドルなのだが、鉄鋼製品1トン当たりに必要な鉄鉱石が1.5トンのため、実際の鉄鉱石のコストは90ドルとなり、その40%がコスト削減となるため、中国の鉄鋼業界の価格競争力が一段と強化され、米国内の鉄鋼メーカーが打撃を受けることもありうる。
中国が完全に変動相場制に移行するには5−7年かかるというのが最も望ましいと指摘するアナリストもいて、当面は為替相場の柔軟化策として、中国は上下5%ずつ段階的に為替変動幅を広げて行くという見方もあるようだ。 【了】
(参照:http://blog.livedoor.jp/emasutani/)
(経済コラム:http://blog.livedoor.jp/eiichimasutani/)
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