◇「本当に知っておくべきニュースはWebでは読まれない」


土屋:ミュージシャンも昔はテレビに出ると「おお!」ってなったんですけど、最近はYahoo!に上がると「この人すごいな」って感じになってきてる。Yahoo!ってずっと前からある気がするんですけど、どうなんですか。

中川:配信をしている側からすると、Yahoo!に依存しすぎている。ネタを配信しても、誰かにそのリンクをおいてもらわないと俺たちは成り立たない。Yahoo!ニュースができてから約20年経ってますけど、やっぱり強いなと思いますね。

土屋:やっぱりYahoo!が君臨してるんですね。反対意見なんかもあるんでしょうか。

中川:Yahoo!はもう君臨していないという人もいて、そういう人たちは「アプリの時代」だと言ってますね。

山本:でも、アプリでも「Yahoo!アプリ」は圧倒的で、ニュースメディアにおけるYahoo!のシェアって65%くらいあるんです。今はSmartNewsとかGunosyとかいろいろありますけど、騒いでいる割にはシェアはそこまで高くないんですよ。Yahoo!は終わりだと騒いでいるアプリ界隈のほうがむしろバブル状態になってて、みんな赤字だったりします。

中川:これ、ネット業界によくある話で、「新しいものを褒めておけば俺すごい」って空気があるんですよ。だから「これからはアプリの時代だ」っていう論者はけっこういて、俺が「Yahoo!だ」っていうと、「それはオワコン(終わったコンテンツ)だよ」って言われるんですよ。だからあんまり「Yahoo!は影響力があります」って言いたくなかったんだけど(笑)。ただ、SmartNewsからの流入はかなり多くなってはいます。

山本:結局は、マジョリティのユーザーにおいて、アプリ界隈の情報収集の中枢もYahoo!になっていると思いますよ。その界隈にSNS系のメッセージングアプリとかが回ってる状態です。私もYahoo!でいろいろ書かせていただいているんですけど、そこでYahoo!の良いところや悪口を客観的に書けるのが懐の広さだと思っています。

土屋:「ブラタモリ」でも、井上陽水が歌うオープニングテーマは「テレビなんか見てないで どこかへ一緒に行こう」って歌ってますもんね。

山本:「お前、そこでこれを言うか!?」っていうものが読者ウケするんですよ。

土屋:トピックスに「炎上した」なんて書かれてると、怖いもの見たさというか…。

山本:テーマに戻って、炎上とは何か。炎上って、普通に「犬が人を噛んだ」と書いてもニュースにならない。でも「人が犬を噛んだ」となるとニュースになる。カップリングの妙っていうものがあって、プロレスでいうマッチメイクがすべてなんです。プラス、戦う理由、いわゆる「具」なんですけど、具が出てくると材料が揃う。これを、見出しですべて表すわけです。炎上の何がいいかというと、見出しですべて語れること。でもそれはWebの中でいうと「壮大な暇つぶし」であって、読んでる人にとっては100グラムの生産性もないんですよ。

中川:炎上すると、アクセスも稼げていいねって話なんです。でも、「側溝に入った男がスカートをのぞいて逮捕された」ってネタで深掘り記事を出しまくって、それが果たして日本にとっていいことなのかっていうね。

山本:炎上も問題点があって。やっぱり人の時間を奪っているわけです。SNSを見ている8%の人が興味を持ちそうなニュースをマッチメイクして掘り込むと、確かにアクセスはとても集まるんです。ただ、ある特定の炎上の話をバーンと掘り込んでPVの並びで見ると、パリのテロの話はより少ない数字だったりする。我々の社会においてその辺のものを面白おかしく揶揄する記事と、パリでテロがあって世界はどうなるんだってニュース、どちらが大切だっていうことになると、圧倒的にパリのほうが重要じゃないですか。この世界はこれでいいのかって思うことはありますね。

中川:Yahoo!ニュースの初期の編集長の名言に「コソボは独立しなかった」ってのがあるんですよ。Yahoo!ニュースに「コソボが独立した」ってニュースを入れたんですけど、それが全然読まれなかったらしいんですよ。「コソボ独立」って世界的に見ればビッグニュースですよね。でも読まれたのはいつも通りの芸能記事やスポーツ記事ばかりだったという。だから本当に知っておくべきニュースっていうのはWebでは読まれないんですよ。

土屋:僕、数年前から「ネットは脳のお菓子だな」と思っていて。「昨日Yahoo!ニュースで見たんだけど」「Wikipediaで見たんだけど」って話題はおもしろいけど、そればかりじゃ脳がたぷたぷ太っちゃう。ちゃんと三食バランスよく食べないといかんなと思って、ネットの情報を警戒しているんです。

中川:たぶん、土屋さんの周りもネット上の情報を見ていると思うんです。そうすると、みんな同じ情報を知っている、すると仲間同士で知識の差別化ができなくなる。俺の友達なんかでも、みんな「側溝の男」の話をするわけですよ。そして、それに関連して「4000人の女児に『つばをくれ』と言った『つばくれおじさん』」とか、「釣竿を使って30年間で500枚の女性モノ下着を盗んだ『釣りキチ助平』」の話になって盛り上がる。俺の周辺では皆この話ばかりしていた。

山本:たぶん、遠くで起きてるテロが大変だっていうよりも、芸能人が振られたとか離婚したってほうがみんな興味を持つんですよ。情報の消費と情報の咀嚼は違う。みんな消費をしたい、暇をつぶしたい。咀嚼というのは、自分の人生に意味のあることを自分なりに解釈して行動に変えていこうというもの。

それと、なんのためにコンテンツが出されているのかという問題もあります。これには2つのベクトルがあって、ひとつは読む人を増やすことによってそのコンテンツやメディアを権威たらしめるため。こちらは、読まれる記事作りを意味し、PVは上がります。もう一つはエンゲージメントといって、読んだ人の考え方や行動を変えるためにコンテンツを出す。こちらは、読み手は限定されるけど、行動を促したり、考えるきっかけを読者に与える、いわゆる「品質」とされるものです。最近はこちらのエンゲージメントを強化したいと思っているんですけども、PVが増えると広告収入も増えるという基本原則があるので、みんな儲けたいものだから、前者のやり方を取ってしまうことも多い。

中川:ネットの広告は何回表示させるかでお金をもらっているんですよね。「10万回表示させてくれるならこれだけお金を支払います」というような形です。そうすると、ページ分割とかいうセコいテクニックを駆使して、表示回数を増やすワケですよね。