借り主が自然に使っていて傷んできた場合は、経年劣化や自然損耗(そんもう)と呼んで、家主が改装費を負担する義務があります。もしも、重要事項説明に、『借り主が全額負担する』と明記されているとか、どちらの負担なのか表現があいまいである場合は、署名捺印をしないようにしましょう」

納得がいかなければ契約しないほうがいいということでしょうか。
「そうです。例えば、部屋の消毒が不要なら、『消毒は不要です』とその場で伝えてください。もしも、そこで業者側が、『それでは入居をお断りすることがあります』と返答する場合は、話し合いをする必要があります。

オプションなのに断られる理由を尋ねるといいと思いますが、その時点で、業者の対応に疑問を持つなど快い契約ができそうにない場合は、いったん契約を保留にして書類を持ち帰って再考する、その場で契約しないと伝えて別の物件を探しなおすほうがトラブルを避けることができます。

賃貸契約とは、重要事項説明を受けて、契約書に署名捺印した時点で成立しますから、説明を受けた段階ではまだ、1円の費用も支払う必要はありません」

初めて賃貸部屋の契約をする場合は特に、業者の説明をすべて「そうしないといけないものだ」と思い込むこともあるでしょうね。

「迷ったら即断せずに、家族や友人のしかるべき人に相談してください。業者に言われるままに支払って後悔するケースはとても多いのです。一般に、入居時に必要な初期費用は、家賃、共益費(管理費)、敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料です。それ以外の費用が求められた場合は注意してください」(穂積さん)
穂積さんは、「ゼロゼロ物件のメリットとデメリットを整理し、複数の物件を比較してよく考えましょう」と勧めます。せっかく新しい部屋に住むのですから、できるだけ「快い契約」がしたいものです。

(品川緑/ユンブル)

取材協力・監修 穂積啓子氏。「安全で快適な一人暮らし」、「女性の安全な暮らし」をテーマとして活動する不動産アドバイザー。宅地建物取引士。コミックエッセイ『不動産屋は見た! 〜部屋探しのマル秘テク、教えます』(原作・文:朝日奈ゆか、漫画:東條さち子 東京書籍)の主人公のモデルとなった。テレビ、雑誌などメディアでも活躍中。