ひとつ前に進んだと思ったら、また違う壁が現れる──。岡崎慎司の「プレミア挑戦」をひと言で要約すれば、そんな言葉で言い表せる。

 これまで幾多の日本人選手が挑戦してきたプレミアリーグだが、「アタッカーとして成功した」と断言できる選手は、いないと言っていい。理由はいくつも考えられるが、わかりやすい要因としてよく挙げられるのは、欧州の選手に比べてフィジカルで劣る日本人が「当たりの激しさ」と「展開の速さ」を苦手としている点である。ボールを保持すれば、身体をガツンとぶつけられてロストしてしまう。あるいは、展開の速さに戸惑い、試合にうまく入り込めない。これらの問題が大きな壁となり、才能を発揮できないまま英国を後にした選手は少なくない。

 イングランドでプレーを始めて約1カ月が経過した岡崎も、プレミアリーグ特有といえるプレースタイルの難しさを肌で感じているようだ。攻守両面における激しさはもちろん、ライバルたちが持つ「絶対的な個の力」も、そのひとつだという。レスターの背番号20(岡崎)はこう語る。

「(プレミアリーグには特徴が)突出している選手ばかりじゃないですか。ドリブルに自信を持っている選手がいたりして、(その能力も)飛び抜けている選手が多い。(今節対戦した)ストークのジェルダン・シャキリ(スイス代表MF)もそうだけど、『どんだけドリブルで行くねん!』っていう選手は多い。みんな自分の形を持っている」

 一方で岡崎はどうなのか。日本代表FWは冷静に自身を分析する。

「(周りに比べると)個の能力では確実に落ちてしまう。ただ、俺は平均的に見れば、少し高い能力はあると思うんです。ある程度走れるし、身体も持つし、ケガにも強い。でも、『これだったら勝てる』というのが、自分にはないんですよ。ある意味、日本人は自分の形をもっていない選手が多いじゃないですか。ドイツで(日本人選手が)ハマるのは、周りが合わせてくれるから。バケモノみたいな個の力を持つ選手はそこまでいないけど、プレミアリーグにはいますよね。むしろ戦術とかをあまり気にせず、個の力だけでやる選手が活躍できる、という印象です。こうなると、日本人にはなかなか難しいと思う」

 岡崎の言う、絶対的な個の力──。レスターで今季すでに4ゴールを挙げ、イングランド代表としてサンマリノとの欧州選手権予選で先発出場を果たしたFWジェイミー・バーディーは、敵を圧倒する「スピード」を持つ。また、球離れが極端に悪いながら、ゴールやアシストの決定的な仕事をこなすリヤド・マフレズ(アルジェリア代表MF)には、相手を翻弄する「テクニック」がある。しかし、岡崎にはそうした武器がないという。それゆえ、工夫を凝らしてプレーしているのだ。

 たとえば、セカンドストライカーというポジション。「このチームでそういうタイプがいないから」という理由でこの役割を見出し、そして実践する。前線から献身的な守備でチームを支え、そして積極果敢に危険なエリアへ飛び出していくことで、ゴールを狙っているのだ。マインツ時代は最前線の1トップとしてゴールを量産することに専念していたが、こうした心境の変化についても「個の力」が多分に作用しているという。

「俺がプレミアで、1トップで張っておく状態で勝負するのは無理だなって思う。なんでバーディーがゴールを獲れるかというと、一瞬のスピードを持っているから。彼は、抜群に速い。だから自分は、『見えにくいところ』でも貢献し、1シーズン通して、『やっぱりあいつがいて良かったな』という立ち位置でやって、しかも1シーズンで10ゴールを獲る。それが、ここで生きていくためのハッキリとしたイメージなんです」

 マンチェスター・ユナイテッドのFWウェイン・ルーニーは、本職のCFからトップ下に移動してプレーすることが多いが、彼は突出した決定力や突破力、展開力を全面に押し出すことで存在感を示している。ただ、このルーニーのプレースタイルとは重ならないと岡崎は言い、「今までいないというか、まったく新しい形を探しているって感じ」と、自身の方向性を説明した。

「基本的には良い位置でパスを受けて、ボールを取られないようにして一旦周りに預け、もう一回出ていく。そうした流れが自分には必要。(ボールを)持って、ルックアップしてパッサーになるというのも自分は求めていないし、できないので」

 さらに、岡崎は続ける。

「一番いいパフォーマンスができれば、(第2節の)ウェストハム戦で点が獲れた。(自分が生きるための)『これ』というプレーが、今はできていると思います。そのなかで、もちろんミスがあったり、プレミアの激しさに慣れていないところが出たりする。だけど、今やっていることが、かなり(成功への道に)近いのではと思っています。ただ、そんなに簡単ではない」

 9月19日に行なわれたストーク・シティ戦では、4−4−2のセカンドストライカーとして先発した。この試合でもゴールは叶わなかったが、それでも献身的な守備でチームを支え、2度のシュートチャンスを掴んだ。

「1試合1試合というよりは、1シーズンを通してのイメージでやっている。ダメなところも良いところも、いっぱい出ると思う。ここからが本当の勝負」と言う岡崎。これまで日本人アタッカーが乗り越えられなかった壁を、彼は試行錯誤を続けながら飛び越えようとしている。

田嶋コウスケ●取材・文 text by Tajima Kosuke