9月8日、筆者渾身の1冊である『亡国の農協改革 日本の食料安保の解体を許すな』が、飛鳥新社から刊行になった。
 亡国の農協改革の中身については先週も取り上げたが、今回は改革推進に際した「レトリック」に焦点を当ててみたい。例えば、読者は農協改革に関連し、以下のレトリックを耳にしたり目にしたりしたことはないだろうか。
 「全農(全国農業協同組合連合会)が農薬や肥料を農協や農家に“高く売っている”。だから、農協改革が必要だ」
 筆者は、農協改革の推進派、あるいは賛同派から、繰り返しこのレトリックを聞かされた。聞き手が「何も考えていない。何も知らない」場合、レトリックがもたらす“印象”にコロリと騙され、
 「全農はけしからん。やはり、農協改革が必要だ」
 などと、まさに“愚民”として思い込まされることになるわけだ。

 全農は、確かに農産物の流通において3割前後のシェアを維持しており、さらに肥料農薬といった生産資材の市場でも5割前後を占有している。とはいえ、別に「市場を独占している」わけでも何でもない。
 そもそも、農協にせよ農家にせよ、全農から肥料や農薬を買う「義務」はない。農家や農協にとって、全農から生産資材を買うか否かは「自由」なのである。全農の販売価格が高いと感じるならば、他の業者から購入すれば済む話であるし、実際にそうされている。

 むしろ、全農が批判されるケースがあるとすれば、農産物市場や生産資材におけるシェアを活用し、ダンピング的な安売りを展開。他業者を排除しようとした場合であろう。市場シェアが大きい全農は、例えば、
 「高い市場シェアを活用し、一部の分野において原価を下回るダンピング販売を実施し、競合他社を駆逐する」
 といったビジネスモデルを採用することが可能なのだ。
 全農が競合を駆逐するために「極端に安い価格で、生産資材を販売している」ならばともかく、「高く売っている」ことで批判されるいわれはないだろう。全農の商品価格が高いならば、他の業者から購入すれば済む話だ。
 ちなみに、全農の生産資材が他の業者より高くなるケースは確かにある。何しろ、全農は農協や農家に「営農指導」というサービスを無償で提供している。さらに、全農は配合飼料等の成分について、基準値よりも余裕をもたせているのだ。結果的に、全農の商品価格が高くなるわけである。すなわち、農業全般に対するサービスを提供している全農と、単純に生産資材の販売のみを提供する一般業者とでは、業態が違うのだ。

 また、連載の第137回でも取り上げた通り、「日本の農業や農協は保護され過ぎている」というレトリックも、明確に間違いだ。ヨーロッパ諸国の農家の所得に占める直接支出(要は税金からの支払い)の割合は、軒並み90%を超えているが、日本は15.6%にすぎない。さらに、多額の輸出補助金を支出しているアメリカは農業予算が農業生産(GDP)に占める割合が65%であるのに対し、日本は27%にすぎない。
 主要国の中で、日本ほど農業を保護していない国はない。それにもかかわらずわが国では、
 「日本の農業は保護され過ぎだ!」
 というレトリックがまかり通り、革命とでもいうべき農協改革を推進する下地が醸成されていった。

 ところで、日本は世界最大の食料輸入大国である。2013年のわが国の農林水産物の輸入額は6兆1365億円と、1960年比で10倍に膨張している。農産物輸入額で見ると、アメリカ、中国、ドイツに次いで第4位となっている。とはいえ、米中独の3カ国は、輸入も多いが、輸出も少なくない。
 食料の輸入額から輸出額を差し引いた「純輸入額」で見ると652億ドル('13年)と、文句なしで世界最大なのだ。わが国は世界の中で突出した「食料輸入国」なのである。