シンガポールですら4点を奪ったカンボジア相手に3得点――。勝点3という最低限の結果は得たものの、内容に目を向ければ日本代表のパフォーマンスは褒められたものではなかった。なぜ、攻撃が思うように機能しなかったのか。ここでは、エリア別にカンボジア戦でのプレーを振り返り、課題を検証していく。
 
2015.9.3 W杯アジア2次予選 第2戦|日本 3-0 カンボジア

【右サイド|右SBの酒井宏は、エリア内にも侵入すべきだった】
 前半の日本の攻撃は、明らかに右サイドの比重が高かった。ボランチの長谷部や山口を経由して本田にボールが入るとタメができ、その間に右SBの酒井宏が外側を回る。多くの時間帯で見られたこうした動きで、カンボジアに脅威を与えていたのは間違いないだろう。
 
 実際にチャンスの数は多かった。開始間もない12分に酒井宏がフリーでクロスを上げ、22分には裏のスペースを突いた本田も長谷部へのグラウンダーのパスで決定機を演出している。カンボジアのマークが緩慢だったため、少なく見積もっても5回は右サイドを崩してチャンスにつなげていた。
 
 とはいえ、いずれの場面でもネットは揺れていない。あれだけ放り込めば、どれかは点につながりそうなものだが、単調なクロスを繰り返すばかりで、中央で待ち構える3バックに撥ね返され続けたのである。
 
 カンボジアは3バックがエリア付近にへばりついてカバーリングの意識が欠如していたため、サイドでは常に2対2の状況が生まれていた。個人技術の差を考えれば、クロスまで持ち込むのは決して難しくない状況だ。
 
 それでもゴールを演出できなかったのは、相手の虚を突くようなアイデアが不足していたからだろう。とりわけ、何度も高い位置まで進出していた酒井宏は、もう一歩踏み込んでエリア内に侵入するなど、工夫が必要だった。
【左サイド|香川と宇佐美の連係向上は、数少ない好材料】
 単調だった右に比べると、後半の左サイド攻撃には見るべき部分もあった。宇佐美が出場した65分以降に、コンビネーションで崩し切る場面が見られたからだ。
 
 ボランチを経由して左サイドにボールが入ると、良いタイミングでトップ下の香川がフォロー。宇佐美の仕掛けに連動してワンツーの壁役になり、エリア内に侵入する場面を作っている。宇佐美のフィニッシュが甘く、ゴールには至らなかったが、狙いとする地上戦での崩しが機能した形だった。
 
 こうしたコンビネーションによるチャンスメイクは、日本代表の武器であるのは間違いない。ボランチの長距離砲が期待できない現状では、なおさら局面を打開できる技術レベルの高い選手の存在は貴重だ。疲れの見えたカンボジアが相手だったとはいえ、香川と宇佐美のコンビネーションが噛み合ってきたのは、この試合で見えた数少ない好材料と言えるだろう。
 
 一方で、気になるのが、先発出場した武藤の状態だ。左SBの長友とのコンビネーションプレーは皆無で(長友が冴えなかったこともあるが)、決定機に絡んだのは42分の香川へのパスくらい。逆サイドからのクロスに合わせるタイミングも悪く、中央へカットインしてミドルを放つくらいしか目立ったプレーがなかった。
 
 シュートの意識が高いのはポジティブに受け止められるが、別の言い方をすればパターンが少ないともとれる。周囲との連動よりも、個人突破の比重が高い今のプレースタイルを続けるのであれば、CFのほうが可能性は広がるかもしれない。
【バイタルエリア|1トップとトップ下の関係は、整理する必要がある】
 カンボジアが徹底的に中央を固めて来たとはいえ、バイタルエリアでの崩しがなかったのは大きな反省材料だ。とりわけ、ポスト役を務める岡崎と香川の連動性の欠如は際立っていた。
 
 くさびを受けた岡崎は、ほとんどの場面で得意とは言えないターンからのシュートを狙っていた。周囲のフォローを受けられなかったために、独力でシュートに持ち込むことくらいしか選択肢がなかったのだ。
 
 仮にトップ下の香川が近い位置にいれば、状況は変わっただろう。受けたボールを一度落として、再びラインの裏を狙う。そうした岡崎らしさも見られたはずだ。
 
 とはいえ、岡崎と香川の距離感の悪さは、今に始まったことではない。1トップを任されると途端に流動性を失う前者と、攻撃が停滞するとボールサイドによってしまう後者の相性の悪さは、6月のシンガポール戦でも露になっていた。
 
 今後のアジア2次予選でも、カンボジアと同じようにゴール前を固めてくる相手は多いだろう。そうした相手に同じようなスタンスで挑んでも、同じ失敗を繰り返しかねない。
 
 選手を変えて新たな可能性を探るのか。それとも、役割を見直してコンビネーションを磨くのか。いずれにせよ、もっともゴールに近い位置でプレーする1トップとトップ下の関係は、もう少し整理する必要がある。