大和証券グループではすでに女性管理職が50%を超える支店も存在する。そうした支店を見ると、女性管理職が30%になっても働き方は現在とあまり変わらないと私は思う。

ただし、当社では女性が活躍できる環境の整備に取り組み、男女の役割と責任、評価が平等になっていることがその前提としてある。逆にいうと、女性管理職が30%を超える時代がくるとすれば、女性が働き続け、活躍できる環境が当たり前になっているということかもしれない。

私が社長に就任する前の2002年、当社では転居を伴う転勤のない「エリア総合職」という職制での採用をスタートさせた。女性社員と話をすると「男性と比べて評価も給与も大きな差がある」「重要な役割が与えられない」との声が聞かれ、「会社に期待されている」と女性社員が思えない状況があったのだ。

結婚や出産、子育てに対する配慮も充分とは言えず、非常に能力が高く熱心に仕事をしているのに辞めざるをえない人たちもいた。そこで女性が活き活きとやる気を持って働けるようにしようと、女性の活躍を推進するための取り組みを始めることにした(図参照)。

代表的な取り組みが、07年より始めた「19時前退社の励行」だ。

働く女性の多くは、家事や育児のためにどうしても早い時間に退社しなければならない。だが、残業が常態化している職場では、そのことにうしろめたさを感じる女性が多かった。職場の中に「長時間働いている人が頑張っている」という文化があったためだ。そこで、個人営業部門を中心に全店で男女の別なく、原則、夜7時までに会社を出なければならないという決まりを設けた。

夫が転勤するとき、転居した場所で働く支店を見つけられる制度も整えた。以前は夫が転勤すると、女性は夫についていくため会社を辞めることが多かった。働くうえでの障害を取り除き、優秀な女性が辞めないようにすることは、会社にとっても得になるのである。

このように環境を整備することで、女性は加速度的に力を発揮し始めた。現在、女性管理職の割合は約5%になっている。

■ダラダラ仕事することがなくなった

女性が活躍するようになると、男女とも効率的に時間管理をする人が増え、仕事の生産性が上がった。仕事が何時に終わるかわからない時代は、5時半にはラーメン屋へ行き1時間くらい夕食をとった後、「もうひと頑張りするか」と仕事をしていたものだ。だったら7時までみっちり仕事をこなし、その後に家族や友人と食事をしたほうがよい。

そもそも夜中まで仕事をする働き方では、頑張る女性がいなくなってしまう。体力勝負では男性が勝つに決まっている。それではいけない。

今後も当社では女性管理職の割合は増えていく。ただし、社会的に女性管理職を増やそうとの気運が高まっているが、強制的に「3割に増やしなさい」というやり方をすると、うまくいかないだろう。成果を出していない人を女性というだけで引っ張り上げれば、男性はやる気をなくしてしまう。実績を挙げている女性社員にとっても迷惑だろう。大切なのは評価を公平に行うことだ。男女関係なく評価を公平に行っていけば、成果を出す女性が必ず生まれてくる。

男性ばかりだった証券会社で違う価値観を持つ女性が活躍した結果、当社の男性たちは大いに刺激を受けている。つまり、女性が活躍できる環境は男性のためにもなるのだ。共働き世帯がより増えていけば、男性の家事や育児の負担も増えていく。そのことが仕事のヒントにつながることもあるだろう。

これから多くの会社で、出産、育児などで女性のキャリアが断絶しない仕組みが整えられていくだろう。同時に、長時間労働によって評価される文化が薄れ、男女に関係なく、仕事の成果によって公平な評価が行われるようになる。女性管理職が30%になるときの働く環境は、そうなっているのではないだろうか。

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大和証券グループ本社会長 鈴木茂晴
1947年生まれ。慶應義塾大学卒業後、大和証券(現・大和証券グループ本社)に入社。引受第一部長、取締役、常務、専務を経て、2004年に社長。11年から現職。
 

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(宮内 健=構成 上飯坂 真=撮影)