中国では、李克強首相の突発的更迭がある可能性が日々高まっている。あるいは身体に不安を抱えると囁かれる李首相が自ら健康上の理由から身を引く可能性も」

 ゴールデンウィーク直前、隣国、中国から帰国したばかりの中国裏政治経済事情通から驚くべき情報がもたらされた。それが冒頭の話だ。そして事情通はこうも語った。

「李の代わりに誰が入るか。筆頭人物と目されているのは、汪洋国務院副総理だ」

 その理由はこうだ。

 習近平政権下で強引に進めている官僚腐敗摘発に、反習派の不満は頂点に達している。というのも、習主席は自分の派閥腐敗には一切、手を付けず、政敵となりうる江沢民元国家主席一派と胡錦濤前国家主席一派のみを血祭りにあげているからだ。そして、その反発と不満はジワジワと中間層にも浸透しつつある。

社債のデフォルト騒ぎも勃発 

 高成長を続けてきた中国経済の陰りに、不安と不信も高まっている。例えば4月21日、河北省の国有企業、保定天威集団。変圧器や太陽光パネルなどを製造している企業だが、放漫経営で業績悪化。2011年に発行した社債のうち21日利払い8550万元(約16億5000万円)が実行できなかった。

 一方、香港に上場する中国の民間不動産大手、佳兆業集団のドル建て社債も5160万ドル(約62億円)分の利払いができずデフォルトに陥った。中国企業によるドル建て社債のデフォルトは初。

「中国は最近1〜3月期の国内総生産は実質で、前年同期比7.0%増と発表。政府は、この数字をまずまずと自己評価。だが、これはかなり厳しい数字。昨年10〜12月期の同7.3%増より下がり、景気の減速傾向が顕著になっているとみれるからだ。リーマン・ショック後の09年1〜3月期の6.6%増に次ぐ低成長率。これには経済の責任者、李克強首相に『リコノミクスは失敗』と批判が強まっているのです」(先の事情通)

首相の首を差し出しガス抜き

 しかし、そうはいっても、最終的に、その不満と批判の矛先はやはり国家主席の習主席に向かってくる。

「そこで習は、このままではまずいと思ったのか、そこを何とかガス抜きをしたいと思案。すべての責任をもともと胡錦濤派、共産主義青年団派で、そりが合わなかった李首相に被せて自己保身を図るつもりでは? と囁かれだしているのです。つまり李の首を切り、再び胡錦濤らの出身派閥、共産主義青年団派出身の汪洋を首相に据え、けして他派閥をおろそかにするつもりはないことを強調したいのでは……というわけ。汪は李と同じ共青団出身でも習にすれば李よりも、はるかにコントロールしやすいとも言われています」(同前)

 いずれにしても、内外から李首相の今後の動向に大きな関心が集まることだけは確かなようだ。

田村建雄(たむらたてお)1950年生まれ。地方新聞記者から週刊誌記者に。現在は月刊誌、夕刊紙などに政治、事件記事など寄稿。著書に『ドキュメント外国人犯罪』『中国人毒婦の告白』など多数。