なかなかお目にかかれない光景だった。ポーランド戦の終盤、ヴォルゴグラード・アレーナの観衆が特大のブーイングで日本代表を襲う──。0-1で負けているにもかかわらず、あからさまな時間稼ぎで試合をクローズしようとする日本のスタンスへの抗議だった。
 
 グループHのもう一方の試合でコロンビアがセネガルを1-0とリードした時点で、1位はコロンビア、2位が日本という順位になった。日本はセネガルと同勝点で、得失点差も総得点も同じながら、反則ポイントで優位に立っていたのだ。
 
 簡単に言えば、コロンビアが1-0のままなら、日本は0-1かつイエローカードをもらわない状況を保てばグループ2位を確保できたのである。だから、日本は攻めなかった。同点ゴールを狙うよりも2失点目を避ける決断を、西野朗監督は下したのだ。
 
 その意図は分かるし、むしろスタジアムを包み込んだブーイングは心地よかった。そういう駆け引きが日本にもできるようになったのかと、しかもワールドカップの舞台でなにより結果(この場合はグループリーグ突破)を求める姿勢は決して悪くない。
 
 この時間稼ぎについてはいろんな見解があるが、正直、そこは重要な論点ではないのではないか。グループリーグ突破を果たすための時間稼ぎはサッカーの世界では至ってノーマルな事象で、そこまでの驚きはない。
 
 セネガルに追いつかれたらそこまで(仮にコロンビア対セネガルが1-1だったら、日本は3位に転落していた)。そういうことも想定しての決断だった。だから、時間稼ぎをしたことは問題でもなんでもない。
 
 ポーランド戦の西野采配でもっとも注目すべき点は、先発6人を入れ替えたことだ。このギャンブルに限って言えば、西野監督は勝ったとは言えない。
 
 セネガル戦のような小気味いいサッカーは影を潜め、宇佐美貴史、酒井高徳など初スタメン組がピッチでミスを繰り返す……。大胆すぎる策が、ポーランド戦ではお世辞にもハマっているとは言えなかった。
 
 流れを掴めず、ゴールも奪えないまま59分に失点。こういう展開にならなければ、敗戦を受け入れての時間稼ぎもなかったわけで、むしろ焦点にすべきは失点するまでのパフォーマンスだろう。ということは、多少なりともメンバー起用に問題があったと見るべきだ。
 
 この日の日本がそこまでスムーズにプレーできていなかったことは、柴崎岳の次のコメントを見ても分かるはずだ。
 
「(セネガル戦までと)受け手の質も違いますし、そこはどういうパスをつけるかというのは考えた部分はある。ただ、自分達のミスが多かったかなと。過去2戦と比べてそこの精度は低かったかなと思います」
 
 
 結果的に2位通過を果たし、主力を休めることができたとポジティブな見方もできる。しかし首位通過を自力でできるチャンスがありながら、それを達成できなかった事実もまた見逃すべきではない。
 
取材・文:白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)