「子どもがなりたい職業ランキング」で上位に挙げられる「声優」。しかし、実際に声優になれるのはおよそ1000人に1人だけ……。現在放送中のドラマ『声ガール!』では、華やかだけど厳しく険しい声優業界をリアルに描いている。

主人公たちが憧れる人気声優として登場するのが、『ハピネスチャージプリキュア!』、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『妖怪ウォッチ』といった話題作に数多く出演している戸松 遥。なんと本人役だ。ドラマの主人公たちと同じように、戸松自身もオーディションに落ち続けるなど、悔しい思いをいっぱいしてきたそうだ。

撮影/すずき大すけ 取材・文/照沼健太 ヘアメイク/サカノマリエ

素の自分のほうがキャラっぽい!? 本人役への“戸惑い”

声優が本業である戸松さんが、ドラマに出演するということで、キャストが発表になったときから話題になっていました。
実写に出させていただくこと自体が私にとってはビックリで、「私でよければ」というありがたいお話でした。さらに本人役ということで……「私って何なんだろう?」ということをすごく考えました(笑)。
実際に演じてみて、どのような感覚でしたか? 「戸松 遥」というキャラクターを演じるという感覚?
自分を演じるって難しくて、しかも用意されたセリフを自分が言っているように話すので。キャラクターを演じるより、ぎこちなくなってしまうのではないかという心配もありました。
自分役だからといって、セリフを読むだけじゃ演技として成り立たないですもんね。
そうなんですよ。だから撮影に入る前、私がどんな話し方をしているのかを周りに聞きました。普段、「自分でいること」って意識しないと思うんですけど、クランクインするまでは意識していて。しかも私の場合、普段の生き方がオーバーリアクションでキャラクターっぽくて(笑)。監督やスタッフさんには「削ぎ落としてほしい」とすごく言われました。
素の戸松さんのほうがキャラクターっぽいんですね(笑)。
もともとの性格も、エネルギーが高いタイプの人間だし、職業柄という部分もあると思います。声量も含めて浮いちゃうんですよ(笑)。だから、なるべく人間っぽく……「ドラマの中の戸松 遥」という人になろうと心がけて演じました。

何度目かのチャレンジでようやく掴んだ『プリキュア』出演

女優が声優役を演じるのではなく、声優が声優役を演じるという点での注目ポイントはありますか?
主人公の菊池真琴(演/福原 遥)にアドバイスをするシーンで、監督さんに「こういう声も出せる?」みたいな相談をされて。色っぽいお姉さんの声になったり、男の子みたいな声になったりしながらアドバイスするんですけど、実写だから顔は私のままっていう。普段はキャラクターを通しての演技で自分の顔が映ることはないので、やってみてすごく恥ずかしかったですけど(笑)、そこは声優ならではのシーンだと思います。
普段の声優の現場との違いに驚いたことなどはありますか?
アニメと違って映像もそこで作られていくので、最初に段取りや打ち合わせを丁寧に行うのがすごく新鮮でした。テスト撮影をする前にそのシーンの全体的な動きを試して、そこからスタッフさんが集まってカット割を決めるっていう。声の仕事の場合は、いきなりテストをやって本番を録ってという感じなので。あと、同じシーンでもいろんなアングルから撮るので、一瞬のシーンを撮影するためにものすごい時間をかけているんだと感心しました。
本作は『プリキュア』シリーズとのコラボドラマですが、戸松さんは2014年放送の『ハピネスチャージプリキュア!』でキュアフォーチュン/氷川いおな役を演じられていますね。
『ハピネスチャージ』の前から2〜3作品くらいオーディションを受けていたんですけど、ずっと落ち続けていたんです。でも「プリキュアになりたい」という夢があったので受け続けていました。だから、プリキュアに参加できたことが本当に嬉しかったですね。
プリキュアはやはり特別な作品ですか?
子ども向けの作品に出られることは、声優にとってひとつのステータス。しかも『プリキュア』は女の子がみんな通る作品。ずっと「出たい出たい」と思っていて、『ハピネスチャージ』でやっと決まったので、すごく嬉しくて……。「子どもたちに夢を与えられるように」という一心で、毎週全力で挑んでいました。あの1年間は、とにかくプリキュアのことばかりを考えていましたね。
プリキュアに出演したことで変わったことなどはありますか?
すごく変わりました。スタッフさんや役者さんたちから、「うちの子どもが見てるよ」って声をかけられるようになって。あまりお話をする機会がなかった方とかから「娘が見てるよ」と言われて、会話のきっかけになったりとか。「お茶の間でこんなに見られている作品なんだ」ということを実感させられました。

声優業界は激戦区!「つねにオーディションとの戦いです」


もともと戸松さんは声優志望だったのでしょうか?
「お芝居がしたい」という思いが強かったのですが、友だちや家族から「声優、向いてるんじゃない?」と言われていて、母親に声優事務所のオーディションを勧められたんです。でも、よく考えてみたら、私がお芝居をしたいと思ったきっかけって「大好きなジブリ作品の世界に入り込みたい」と思ったことだったんですよ。だから、それには声優さんが一番近い仕事かもしれないと興味がわきました。
戸松さんの声優としての才能を見抜いていたお母さん、スゴいですね!
家でしょっちゅうモノマネとかしていたので、そういう姿を見ていたんでしょうね(笑)。
そしてオーディションに合格し、声優活動をスタート。ドラマでは、主人公の真琴がオーディションを受けるシーンが印象的ですが、オーディションは新人声優時代だけの話じゃないですよね。
今でも基本的にオーディションを受けて仕事をいただいているので、つねにオーディションとの戦いの日々です。事務所に入るまでもそうですし、事務所に入ってからもオーディションの嵐ですね。ドラマではそういう厳しい部分もしっかり描かれています。
戸松さんがオーディションを受けた当時は、今ほど声優に憧れている人が多くはなかったのではないかと思うのですが。
そうした変化は本当に感じますね。私がこの業界に入ったときよりも全然、激戦区になっていて……。「今の時代だったらデビューできていなかったんじゃないかな」って思うくらい。デビュー年齢も高校生とか当たり前で、どんどん若くなってきていますし。今頑張っている10代の子たちは本当にスゴいなと思います。
戸松さんの新人時代、声優業界に入ったばかりで大変だったこと、戸惑ったことなどを覚えていますか?
じつは今回、クランクイン前に監督やスタッフさんたちから「あまり声優業界のことを知らないから教えてほしい」とのことで、業界の専門用語から新人時代の苦労まで、いろいろお話させていただいたんです。だから作品や自分のセリフには、その内容が反映されている部分がけっこうあるんですよ。
新人の頃、オーディションに落ちたときは、その作品のオンエアを必ず見て「こういう演技を求められていたのか」と考えていたんですけど、まさにドラマではその様子がそのまま使われていて。あれは私の新人のときの話なんです(笑)。だからこのドラマを見ていただければ、私の新人時代の苦労や工夫なんかが見えてくるかもしれません。
今回、戸松さんは真琴のよきアドバイザーともなりますが、戸松さん自身が声優人生で助けられた方、お手本となった方はいらっしゃいますか?
たくさんいます。現場で基本的なマイクワークなど、技術的なことをいろいろと教えてくださる人もいらっしゃいましたし、「芝居に対して“できない”とあきらめてはいけない」など、メンタルの部分で励ましていただくこともありました。それ以外にも、なにげなく話しているときの先輩の言葉に、私が勝手に感銘を受けたりするなんてこともありました(笑)。
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