犬に限らず“ペット”は、その枠を超えて“家族”だと多くの飼い主が感じているだろう。では、その“家族”が自分より先に旅立ってしまったら…。映画『僕のワンダフル・ライフ』は、ゴールデン・レトリバーのベイリーが何度も生まれ変わり、最愛の飼い主と再会する物語。本作で吹き替えとして参加した花澤香菜も、愛犬との日々を思い返したという。「また、会いに来てくれるのかなと考えてしまいますよね」――花澤は、愛犬“サラダ”との思い出を幸せそうに、優しい声で語りはじめた。

撮影/川野結李歌 取材・文/渡邉千智 制作/iD inc.

ベイリーとハンナの“心の距離”が近い感覚で演じた

ゴールデン・レトリバーの子犬・ベイリーが最愛の飼い主・イーサンのために、3回も生まれ変わるという映画『僕のワンダフル・ライフ』。映像をご覧になって、どんなシーンが印象に残りましたか?
ベイリーが死んでしまって……普通ならそこで終わりですが、そこから「イーサンにまた会いたい!」という強い気持ちで生まれ変わるのは印象的でした。50年後、大人になったイーサンとベイリーが出会うところは「この映画を見ていてよかった…!」という気持ちになりました。
イーサンとベイリーの固い絆には、胸をアツくさせられますよね…。本作で花澤さんが演じたのは、10代の頃のイーサンの恋人、ハンナです。
ハンナの第一印象は「明るくてよく笑う活発な子」でした。10代の無邪気な少女らしさもあるのですが、そのなかで将来やイーサンのこともしっかり考えていて。芯のある女の子なんだなと思いました。
ハンナを演じる際に、イーサンとベイリーへのそれぞれに対する向き合い方を意識されたとのことですが、具体的にどのような違いを出したのでしょうか?
イーサンとはラブラブなシーンがあったので、そこは10代の男女の幸せな雰囲気が出るように、思いっきりラブラブな感じを表現しました。のちに、イーサンと気持ちのすれ違いが生じて真剣に話し合うシーンでは、イーサンを愛しているからこそ出てくる言葉なんだということを強く意識して演じました。
イーサンは怪我で夢を絶たれ、後ろ向きになってしまいます。これがきっかけで、イーサンとハンナは一度離れ離れになってしまいますね。ベイリーと向き合う際は、どんなことを意識したのでしょうか?
ベイリーと話すときは、画面で見るよりも物理的な距離がもっと近いような感覚で演じました。
映像でのベイリーとハンナの距離よりも、もっと近くにいるような感覚で?
はい。そうしたほうがベイリーとハンナの、心の距離の近さが感じられると思ったんです。ただ、私自身の犬への接し方がハンナのように、すぐに「ヨーシヨシ!」とはならないタイプで…(笑)。少し距離を置いて「いいですか? 仲良くしても…?」という感じなので、ハンナのベイリーへの接し方を映像でじっくり観察して演じました。

お姉さんみたいだった、愛犬“サラダ”との思い出

花澤さんの犬に対する「いいですか? 仲良くしても…?」という接し方について、ぜひ詳しくうかがいたいのですが…。
もともと、小さい頃にシーズーの女の子を飼っていて。その子がかなりおりこうで、むしろ私よりもしっかりしている子だったんです(笑)。当時から、お姉さんみたいな感覚で一緒に育ってきたからか、私は、今でも犬との向き合い方に少し距離があるんですよね。動物と仲良くなるのには、けっこう時間がかかるタイプです(笑)。
そうだったんですね(笑)。そのシーズーの女の子は、花澤さんが何歳の頃から一緒に過ごしていたんですか?
私が生まれる前に父が母へプレゼントしたワンちゃんなので、私が生まれたときにはもういましたね。
だから、お姉さんみたいな感覚なんですね。
そうなんです。すごくどっしりしていて、本人も自分は犬だと思っていない感じでした(笑)。
差し支えなければ、その子のお名前を教えていただきたいのですが…。
“サラダ”という名前でした。色も白でしたし、誰がどういう理由でこの名前をつけたのかはわからないのですが(笑)、私が生まれたときにはもう名前がついていたので、「サラちゃん」と呼んでいました。
そのサラダちゃんと一緒に過ごしてきたわけですね。
はい。ただ、私が1、2歳の頃に犬猫アレルギーだと発覚して。おじいちゃんの家にサラちゃんを預けることになったのですが、ことあるごとにおじいちゃんの家に行って、サラちゃんと一緒に遊んでいました。……いや、「遊んで」というよりは、私が「遊ばれている」みたいな感覚でしたね(笑)。
そうなんですか?(笑)
ボールを投げて遊んだりとかはしなかったですね。私が落ち込んで泣いているときに、そっと後ろから近づいてきてただそばにいてくれる、みたいなことが多かったなと思います。サラちゃんは私が犬猫アレルギーということも知っていたのか、私がアレルギーに反応しないくらいの距離をとって、そばにいてくれたんです。
素敵ですね。ときどき、動物の行動から「人の気持ちがわかるのかな?」と感じるときがありますよね。
今思えば、私の悲しい気持ちを悟って、何も言わずにそばにいてくれたのかな? と感じます。
サラダちゃんとの思い出で一番印象に残っていることは?
んー…何だろうなぁ…。パッと出てくるのは、小さい頃、冬にストーブでおもちを焼いているのを、私と並んで一緒に見ている様子ですね(笑)。おもちがぷくーっと膨らんでくるのを、一緒に「まだかなー?」って思いながら見ていました。
想像しただけで可愛いです(笑)。
サラちゃん自身は大人しい子だったので、思い返すと必ずそばにいて、本当に家族として一緒に育ってきたなという印象が強いです。
本作を見て、サラダちゃんのことを思い返しましたか?
しました! イーサンとベイリーが一緒に育っていくので、そういう姿を見て、私もサラちゃんと一緒に育ってきた日々を思い出しました。犬の心って実際のところは読めないですけど、サラちゃんもこんなことを思ってくれていたのかな? とか、こう思ってくれていたらいいなと感じました。ベイリーが生まれ変わってイーサンに会いに来たように、サラダも会いに来てくれるかなって考えてしまいますよね。

パワーが足りない! 洋画のアフレコの難しさと面白さ

こういった洋画のアフレコと、アニメのアフレコではどういう違いを感じますか?
まず、映像のなかでの文化の違いを感じます。外国の方は表情がすごく豊かですし、身振り手振りも多くて。そういう環境で育ってきているんだなと思うと、日本人の私がいざ演じたときに、やっぱりパワーが全然足りないんですよね。
パワーが足りない?
全力でお腹から声を出さないと、その方の表情やリアクションに合わないことが多いなと感じます。私自身、まだ吹き替えの経験が少ないということもあると思うのですが、こういった吹き替えのときはとても汗をかきます。
それだけ、全身を使って演技をしているということなんですね。
そうですね。本当に体全部を使ってお芝居をしている感覚です。洋画の吹き替えをやらせていただくと、普段、自分がいかにボソボソとしゃべっているかを痛感しますね…(笑)。
難しいと思うことが多いですか?
毎回難しいなと思いますが、とても勉強になります。私の感覚ですが、洋画を見ていると、けっこう早口でおしゃべりをしている印象があって。反射的にしゃべる能力は必要なのかなと感じます。私は、ゆっくり考えてからしゃべるタイプなので、そこはもっと洋画の吹き替えに慣れて、技術として身につけていきたいです。
吹き替えのお仕事には、どんな魅力を感じますか?
俳優さんたちの演技をじっくり見て、自分がどういうふうに演じるかを考える時間があるのは面白いなと思います。アニメでは、アフレコ時にすべての絵が完成していない場合も多いので、どう表現するかは自分に任されることもあります。でも、吹き替えだとすでに映像があるので、その俳優さんたちの繊細なお芝居に、自分が近づかないといけないんですよね。とても難しいところなんですが、やりがいがあるなと感じます。
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