ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)のモンスター新入社員役で強烈な印象を残した太賀。作品でエキセントリックな姿をさらすからこそ「日常で普遍的であることを大事にしたい」と語るように、本人はモンスターどころか、己を静かに見つめる深い知性を感じさせる24歳である。芸歴はすでに10年以上、この落ち着きぶりも納得だが、映画『ポンチョに夜明けの風はらませて』では理性を振り払い、現実にもがきながらも疾走する若者を全身全霊で体現した。

撮影/祭貴義道 取材・文/黒豆直樹 制作/iD inc

芝居の“鮮度”を意識しつつ、頭で考えすぎずに臨んだ

10月28日に公開される主演映画『ポンチョに夜明けの風はらませて』は、太賀さんにとっては、10代の頃からのいろんな縁、出会いが導いてくれた作品と言えそうですね。
10代で出演した映画『ひゃくはち』の永井拓郎プロデューサーからオファーをいただいたんですが、原作も『ひゃくはち』と同じ早見和真さんの小説で、その時点でもう「やりたい!」と。今回、自分が主人公をやらせていただけるということで、迷いはなかったですね。
廣原 暁監督とご一緒されるのは初めてでしたね。
僕の勉強不足で廣原監督のこれまでの作品は存じ上げなかったんですが、お話をいただいてから映画『世界グッドモーニング!!』と『HOMESICK』という2作品を拝見したら、ものすごく面白くて、現場に入るのが楽しみでした。
高校卒業を控えた、太賀さん演じる又八とジン(中村 蒼)、ジャンボ(矢本悠馬)の3人がジャンボの父親の新品の愛車で繰り出し、途中でグラビアアイドルの愛(佐津川愛美)や風俗嬢のマリア(阿部純子)を加えて、当てのない旅に出るというロードムービーです。脚本を読まれての印象は?
躍動感のある青春映画だなって感じました。その中でも、自分が演じさせていただいた又八に強く惹かれました。明日をかえりみず、目の前にあるいまを全身で楽しんでいる姿がまぶしくて、これを自分がやったらどうなるんだ? と。
廣原監督自身が脚本を書かれていますね。
僕が拝見した映画『世界グッドモーニング!!』と『HOMESICK』に比べて、ポップでコミカルな印象の本(脚本)だったので、これはどんな映画になっていくんだろうと興味を持っていました。
実際、現場に入ってみて、撮影はいかがでしたか?
わりとタイトなスケジュールだったのですが、丁寧に撮っていった印象ですね。セッティングにせよテストにせよ、しっかりと時間を取って、必要ならば何度もテイクを重ねていった覚えがあります。その中で、やはり芝居は“鮮度”が大事なので、そこを意識し、だからといって頭で考えすぎないようにと思ってやっていました。
ご自身で完成した映画を見ての感想は?
正直、ホッとしたっていう気持ちがあります。先ほども言ったように考えすぎず、計算せずに、という気持ちで演じていたので。目の前のことに飛びついていく本能的なアプローチで、全体像を見るような広い視野を持ってはいなかったんですよね。完成したら、すごくいい映画になっていて…。
そういう意味で、“主演”ということや全体を引っ張るという意識はあまり持たずに臨んでいた?
そうさせてもらえたのがありがたかったです。あまり「主演だ」と意識することもなく…。ただ、考えてはみたんですよ。「主演としてどう現場にいるべきか?」って。でも、そんなことを意識して芝居が落ち着いてしまうより、いつも通り、思うがまま演じたらいいのかなって。

又八、ジン、ジャンボの姿と、自分の青春時代を重ねて

又八、ジン、ジャンボのトリオ感、3人が醸し出す疾走感や青春のみずみずしさが映画の重要な要素になっていると思います。中村さん、矢本さんとの現場でのやり取りはいかがでしたか?
最初にみんなが揃うのが大学の合格発表のシーンで。初めて3人で言葉を交わしたのが、そのシーンの待機車の中でした。それぞれ共演はしているんですけど、3人でというのは初めてで、どうなるかな? と思ってましたが、すごく波長が合って。
知らない仲ではないとはいえ、3人で初めて顔を合わせたのが撮影当日の待機用の車の中というのも面白いですね(笑)。
そこであっというまに、あの3人の空気感ができあがりましたね。正直、何を話したのかも覚えてないくらい、くだらない話題でワイワイ盛り上がって、それがそのまま映画の中の3人に表れていると思います。
軽妙なかけ合いが魅力的ですが、アドリブも多かったんでしょうか?
わりとありますね。ただ、あまり狙って置きにいくような感じではなく、3人のテンション、グルーブ感から生まれてくるものを大事にしていました。
不思議なのですが、もし監督が「3人の会話は俳優陣に任せていました」と言ったら、「あぁ、あのライブ感、疾走感はそこから生まれたんだな」と納得する気がしますし、一方で、緻密で丁寧に作りこんでいるなと感じさせる部分も多くありますね。
まさにそういう部分が、僕自身も完成した映画を見て、安心したところですね。僕らのやり取りに関しては、計算というよりも、その場での躍動を大事にしていて、それを廣原監督がしっかりと作品の枠の中にはめてくれたという感じで。ものすごく素敵な監督だと思います。
青春映画ですが、見る人それぞれの立場や年齢で受け取るものが違うと思います。太賀さん自身は、この物語、3人の青春からどんなメッセージを受け取りましたか?
僕自身の青春時代は、半分社会人で半分学生みたいな部分があって、どこかで「大人になりたい…いや、ならなきゃいけない!」という思いに縛られ続けていたのかなと、この映画を見て思いましたね。
この3人、とくに又八は自分を縛っているものを振りほどいて、飛び出そうとしますね。
大人になる前のちょっとしたモラトリアムの時間を描いていますが、明日をかえりみない3人が僕にはすごくまぶしかったですし、自分にも、もしかしたらそういう選択肢があったのかもしれないとうらやましくなりました。
決して欲しいものを思いのままに手に入れているわけでもない3人ですが、それでもうらやましいと?
そうですね。こうして映画を通じて(青春の)追体験ができてよかったし、見る人それぞれ、自分と照らし合わせながら見てほしいです。「いや、これはないわ…」と思うかもしれませんが(苦笑)、そういうそれぞれの青春の違いの中にこそ、この映画の意味があるのかなと。だから、若い人だけでなくいろんな年齢の方に楽しんでほしいです。
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