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【MiAUの眼光紙背】コンテンツ渡世

2008年02月25日11時00分 / 提供:眼光紙背

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MiAUの眼光紙背:第14回

日本でコンテンツを売り物にしている企業の多くは、伝統的にビジネスモデルの構築が下手なように思われる。言い換えれば、「消費者からのお金の取り方」が下手ということだ。これは大変残念なことである。

その点アメリカなどのコンテンツ企業は貪欲というか生き残りに必死で、様々な「コンテンツの売り方」を模索する動きがここ数年活発になっている。うまく行っているものもあるし、行っていなさそうなものもある。私などは、そのような数多くの試行を眺めているだけでとても楽しい。そうした栄枯盛衰こそが、資本主義のダイナミズムの精髄だからだ。まあ、他人事だから、ということもあるのだが。

最近私が見た中でおもしろかったのは、Logos Bible Softwareという会社の事例だ。1992年に設立の、キリスト教関係の古典的な書物を文字起こしし、電子媒体で出すのが専門の会社である。いかにも儲かりそうにありませんね。

彼らがまず取り組んでいるのは、事前オーダーによる出版モデルの確立だ。「出版候補」をリストアップし、その出版コストを算定する。その上でとりあえずの価格を決め、関心を持ちそうな顧客に連絡し(あるいはウェブ上にリストを載せ)、コストをペイできるだけの事前オーダーが入ってから出版するというわけだ。もちろん、事前オーダーしたところで実際に出版されるまでは課金されないし、最終的に十分な数のオーダーが集まらず出版計画がキャンセルされれば、お金が取られることはない。
出版後の定価よりも事前オーダーの価格のほうがずいぶん安く設定されているので、消費者は、その本が欲しければ事前オーダーしたほうが安く手に入れられる。出版社はと言えば、赤字を心配せずに本が出せるわけだ。

その上でさらにおもしろいのが、Logos社が「コミュニティによる価格付け」Community Pricing)と呼ぶ手法だ。このやり方では、Logos社自身は本の価格を最後まで決定しない。

ユーザが事前オーダーをするときに、好きに価格を選んでもらう。例えば、その本に自分は20ドルまでなら出すというなら20ドルだ。100ドル出すという人も、1000ドル出しても良いという人すらいるかもしれない。そうして選ばれた個々の価格に、その価格か、あるいはそれ以上でも出すと言って事前オーダーした人の総人数を掛けて、予想される収益を計算する。予想額がLogos社が想定する出版コストを越えていれば、その価格に決定というわけだ。場合によってはいくつかの価格で越えるかもしれないが、その場合Community Pricingに参加していた人は最も低い価格で買うことができる。

簡単な例で考えてみよう。仮に10ドルなら買うという人が10人、20ドルなら買うという人が40人、50ドルなら買うという人が10人、100ドルなら買うという人が1人いたとする。版元としては、出版に要する費用として最低1000ドルは確保したい。この場合価格を100ドルとすると、1人しか買いそうにないので予想される収益は100ドルだ。これでは全然ペイしない。では10ドルならどうかというと、10ドルで買ってくれそうな人は10+40+10+1人=61人いる(100ドルでも出すという人なら10ドルなら喜んで買うだろうから)。しかし、これでも610ドルにしかならない。では20ドルならどうかと言えば、どうやら51人は買ってくれそうだ。となると、20*51=1020となり、めでたく1000ドルのラインを突破するのである。そこで、価格は20ドルに設定される。

おもしろいのは、自分が仮に100ドルという値段を選んでも、実際に払うのは20ドルで済むことがあるということだ。また、多くの場合事前オーダーの人数が増えれば増えるほど値段は下がる。ようするにこれは、出版社にとっても客にとっても「妥当な」価格を、事前オーダーする個々人の思惑とは無関係に算出する仕組みなのである。

別にこの会社が、コンテンツ企業の未来のあり方だと言うつもりはない。ただ日本の場合、大名商売とまでは言わないにしても、商品としてのコンテンツの売り方があまりにも漫然としているというか、工夫がないように思われてならないのだ。消費者を敵に回すようなキャンペーンやロビイングに精を出す前に、儲けを最大にする売り方はもっといろいろあると思うのだが。

ちなみに経済学という学問があって、この手の話が大変得意である(こういうことしか役に立たないという話もある)。今までは理論的には考えられても、実際に人間が手でやるとなると面倒くさい、というようなモデルが多かったのだが、インターネット上のウェブサービスとしてオークションを実装すれば、この手の面倒くささはだいぶ軽減されるだろう。だから、今後はこうした多様な売り方が、次第に市民権を得ていくことのではないかと私自身は考えている。(八田真行)


プロフィール:
MiAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:MiAU

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧
関連ワード:
MIAU  コンテンツ  眼光紙背  モデル  著作権  
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