「実はバンドをやってるんです」もしくは「やってたんです」という人は意外に多い。1曲でも当たるとデカいといわれるバンドだが、バンドを組んだことのない人にとって、その実態は謎である。そこで、「バンドあるある」(リットーミュージック)の著者で「バンドあるある研究会」の松本哲也さん(作家・劇団「小松台東」主宰)と藤澤朋幸さん(元バンドマンとして10年間活動・現 放送作家)に、「バンドあるある」とバンドマンの裏側について伺った。

・まずは
「ライブあるある」から

●「もう一歩ずつ前へ来てください」 〜今日もこの言葉からライブスタート

藤澤さん(以下「ふ」)「これはもう、『バンドあるある』の中の1ページ目といってもいいくらいの『あるある』ですね。ライブハウスで起きるドーナツ化現象は深刻な問題ですよ(笑)。お客さんが後ろの方にしかいないから『どこまでがステージなんだ』って思っちゃいますから。『もう一歩ずつ前へ来てください』って言っても、なかなか前に来てくれないので、どこかで見切りをつけてライブスタートってなります」
松本さん(以下「ま」)「だから、ものすごくカッコつけてる人達とかは大変なんです(笑)」

「ライブあるある」
●「関係者が来ている」というフレーズに めっぽう弱い

ふ「ちょっと格上のバンドとうまく対バンができた時は、そこには“大人の力”がついていることが多いから、『これはいいチャンスだぞ』と思います。特に、出番がそのバンドの前後になった時は、少しでも見てもらえる可能性がありますから、やっぱり意識はしますね」
ま「でも、正直に言うと“関係者”の実体が、ナゾすぎるんですよ」
ふ「“関係者”っていうフレーズが一人歩きしてますからね。言葉は悪いけど、中には“がっかり関係者”もいますよ」
ま「例えば『ナタリー』の人が来てる、とかだったらいいんですけど、たまに本当に業界関係者なのかわからない人がいますからねぇ〜」

「ライブあるある」
●結局、カバー曲の方が盛り上がる

ふ「そのバンドを初めて見たお客さんにとっては、『次は新曲です』とか言われても全部新曲じゃないですか。だから、誰でも知ってる曲をやれば、その人たちに思い入れがなくても盛り上がれます」

「バンドマンあるある」
●元バンドマンの電通マンに抱く 劣等感

ふ「芸人さんとか役者さんとか、バンドマンに限ったことではないとは思うんですけど。もちろん自分が好きで続けてるわけなんですけど……まあ、やっぱり(笑)」
ま「なんだかんだいっても、広告代理店の方はお金持ってますからね」

――いつかは逆転する可能性もあるじゃないですか!?
ふ「もちろん、そうです。ただその一方で・・・やっぱり確率は高くはないですから・・・いろんなバンドマンに聞いてみたけど、そういうことを自覚してるバンドマンも多いってことで・・・」

「ボーカリストあるある」
●表向き、ボーカル同士はけして褒め合わない。

ふ「やっぱり、バンドを背負ってますからね。『負けちゃいけねえ』っていう気は張ってますよね。『よかったですよ』って何も理由なく言うのも失礼だし、かといって具体的に言っても、それが向こうが思ってたのと違ったらそれも失礼にあたるわけだし。だからとりあえず打ち上げに行って、下ネタとか喋ってた方が距離を縮めるには早いです(笑)」
ま「直接は言わないで、ドラムの人に『ボーカルがよかった』って言って、それをドラムがボーカルに言う・・・という感じですね」

ボーカルといえば、個人的にこういう印象があったので聞いてみた。
――「ボーカルはモテる」みたいなイメージがありますが、実際はボーカル以外の人の方がモテるって聞いたことがありますが・・・?

ま「人にもよるけど、ボーカルはモテるっていう前提でいるから、頑張らない可能性があるんじゃないかと・・・。ドラムやキーボードの人とかは積極的に話しかけにいくからコミュニケーションが取れる。だから、キーボードの人が、けっこういい女性を連れてることがあるんですよ」
ふ「あと、ボーカルをやってる人は意外に不器用な人が多いです。ボーカルの口説き方はたいていストレートです。『俺は絶対にあきらめないから』みたいな。普段は器用な歌詞を書いてるのに、気持ちばっかり前のめりになるというか・・・。その点、キーボードの方がうまくやっていい思いしてるのかもしれないですね。もちろん、人によるとは思いますが」


(さらに、素朴な疑問をぶつけてみた)
ここからは、バンドを組んだことのない私(筆者)から、バンドにまつわる素朴な疑問を。

――「ファンが増えてきてるな」と感じる時は?
ふ「一応、通説としては、平均で30人集まり始めたら早いって言われてます。例えば、毎月数回ライブをやるとしても、友達が毎回来てくれるわけじゃないではない。だから、平均で30人が集まると、潜在的には100人以上のファンがいることになるわけですよ。そしたら、あとはきっかけ次第。大人に肩を叩かれるのか、どうなるのかは分かりませんけど、そこからは早いっていうのはまわりでもよく聞いたし、実際僕がやっていたバンドもそうでした。平均で30人くらいが集まるようになると、そこからトントン拍子に動員が増えていったし、色々な意味で“良い話”」も、増えていきましたね」

――音楽は、一曲当たるといけるって言いますよね
ふ「芸人からバンドに転向して(※松本さんは元芸人、藤澤さんも芸人を目指していたことがあります)、一番いいなって思ったのはそこ。芸人は毎回新ネタをおろすのが普通だけど、バンドの場合は『あの曲をやってほしい』って言われるんですよ。こんなに良いことないなって思いましたね」

――芸人さんがライブで同じネタをやると・・・
ふ「『もう見たわ』とか」
ま「『またそれか』とか言われて・・・」
ふ「ネタのアンコールはないですからね」

――でも芸人さんも、一個のネタでバーンと売れていく時がありますよね
ふ「お笑いと音楽とで大きく違うのは、お笑いファンの方って、お笑い自体が好きなんですよ。一方、バンドを追いかけてる方って『そのバンドが好き』っていう思いの方が強いんですよね。もちろん、他のバンドがイヤだっていう訳じゃないんだけど、ちょっとそのへんのパワーバランスが違うというか。僕も元芸人なんで、どちらも感じるものはあったんですけど。やっぱりお笑いの場合、そのコンビのネタだけ見て帰るっていうのはあまりないじゃないですか。だけどバンドは、目当てのバンドが終わったら帰っちゃう方もいるんです」
ま「だから、ライブの出番の順番を言いますね」
ふ「言います。たぶんイベントの主催側としては言ってほしくないんでしょうけど。でもこっちにしてみたら、芸人さんは5分でネタが終わるけど、バンドは30分やるんで・・・。興味のないバンドを30分間見るっていうことは、お客さんにとってはかなりのカロリー消費ですし」
ま「座れたらまた違うと思うんですけどね。そこらへんの壁にもたれるしかないですから」

――長く続ける秘訣って何でしょう?
ま「バンドのことは分からないけど、僕は劇団を主宰してるんで劇団についていうと、確か松尾スズキさんが『劇団を長続きさせるコツは、劇団会議をやらないことだ』っておっしゃってました」
ふ「衝突する場を作らないっていうのはよく分かります。バンドによって向き不向きはあるでしょうけど、会議をせずに、誰か一人がイニシアチブを取って、それ以外は口出しをせずについていくってことで成り立てば、うまくいくんじゃないですかね」

なるほど!ある意味、ゴールデンボンバーはこの方式に近いかもしれない。では、バンド活動をする動機に関する質問を。

―― 一般的に、バンドマンはモテたいから活動してる?

ふ「モテたいからですよ(笑)。バンドをやめてから客観的に振り返って思うけど、バンドマンも劇団員も結局はモテますよね。松本さんは自分の劇団員を見ていてどう思います?」
ま「いや、舞台の役者はモテないです」
ふ「ホントですか!?」
ま「順位で言うと、芸人>バンドマン>役者じゃないですかね」
ふ「役者はモテませんか?」
ま「モテるわけがない(キッパリ)」
ふ「でも、みんな彼女がいますよね」
ま「それは役者同士が付き合ってるだけなんです」
ふ「そうなんですか!?バンドマンの方は、面倒をみたがる女の子が絶対数としているから、食えてなくても、割といい女性を連れてる人が多いですよ」
ま「音楽をやってる人は格好も良いから。でも、なんだかんだいってもやっぱり一番モテるのは芸人さんだと思いますよ」
ふ「そうだな〜。『面白い』っていう以上の武器はないですからね。芸人じゃなくても、サラリーマンだって面白い人が絶対モテるし」
ま「楽器ができるっていうのは素人でもわかりやすいけど、芝居ができるっていうのはわかりにくい。『芝居がうまいわぁ〜』ってホレることなんてないから(笑)」

バンドマンは、派手見える反面、どこか哀愁が漂っているところもある。「バンドあるある」の書籍については「バンドマンが可愛く見えるように、愛を持って1冊の本にしました」(松本さん)とのこと。取材でお話を伺っていくうちに、色々なバンドを応援したくなってきた。とりあえず、ライブハウスに行って「もう一歩ずつ前へ来てください」と言われた時は、壁にもたれずに前に出るようにしよう・・・。(取材・文/やきそばかおる)



●「バンドあるある」(リットーミュージック)
著:バンドあるある研究会
松本哲也(作家・劇団「小松台東」主宰)
藤澤朋幸(元バンドマンとして10年間活動・現 放送作家)
漫画:若杉公徳(『デトロイト・メタル・シティ』【ヤングアニマル】ほか)

バンドマン感涙のネタ400連発!
・ライブ当日の流れあるある ・パート別勝手に人物紹介あるある ・バンドの浮き沈みあるある ・スタッフに聞いた! ライブハウスあるある等、満載。

若杉公徳先生(『デトロイト・メタル・シティ』【ヤングアニマル】、『みんな!エスパーだよ!』【週刊ヤングマガジン】、『KAPPEI』【ヤングアニマル】でもおなじみ)の書きおろし漫画もたっぷりと!