シアトル・マリナーズイチローが現地時間で3日現在、打率.267と低迷している。この日行われた対シカゴ・ホワイトソックス戦でも、4打数ノーヒットに終わった。

 イチローは、ナイトゲーム35試合では打率.312をマークしているが、デーゲーム20試合では打率.190と、振るっていない。

 野球は太陽の下、天然芝の球場でやるべきだ。メジャーリーグにはこんな不文律があるが、今でもこれを忠実に守っているのが、シカゴ・カブスだ。
 カブスの本拠地、リグレー・フィールドは1914年4月に開場。メジャーリーグでは、ボストン・レッドソックスフェンウェイ・パークに次ぎ2番目に古い球場だが、ナイター設備が整備されたのは1988年と、ごく最近のこと。1941年には、照明灯の設置工事に着手したのだが、その直後に日本軍による真珠湾攻撃太平洋戦争が勃発し、鉄骨を供出しなくてはならないため、工事が中止になった。このため、開場から1988年までの75年間6,852試合全てデーゲームで行われた。
 照明設備が整った現在でも、主催試合の多くをデーゲームで開催している。仮にイチローがカブスの選手だったら、もっと打棒に苦しんでいたかもしれない。

 そんなリグレー・フィールドだが、どういうわけだか、スタンドは満員。年間観客動員数は、2004年に300万人を突破すると、2008年には330万220人を記録。昨年は301万7,966人で、メジャーリーグの30球団中9位だった。
 他球団が平日や夏場の祝日、夜に試合を開催する中でのこの観客動員数は大健闘だが、昼間からビールとホットドッグを両手に試合観戦を楽しむファンをテレビで見かけると、いったいこの方は、何を生業にしているのだろうかと、余計な詮索をしてしまう。

 それだけ、カブスのデーゲームが愛されているという証拠なのだろう。米国人作家のポール・オースターの「ムーンパレス」には、こんな一節がある。

ビクター伯父さんはデーゲームの断固たる擁護者だった。チューインガムの王様が人工照明などという邪道に堕していないという事実は、伯父さんから見れば論理的優越の証にほかならなかった。『こっちは野球を見に来ているんだ』と伯父さんはよく言った。『星はグランドにいる連中だけで十分さ。野球とは太陽と熱き汗のスポーツなんだ』
(ここで言うチューインガムの王様とは、カブスの元オーナー、ウィリアム・リグレー・ジュニア。ガム会社の経営者で、球場の名前の由来になった)

 そんなリグレー・フィールドだが、ぜひ観戦のお供にしたいのが、日焼け止めとサングラス、帽子といった熱さ対策と、寛大な心だ。
 既知のとおり、カブスは1908年を最後に、ワールド・シリーズ出場から遠ざかっている。最後のワールド・シリーズ出場から100年にあたる2008年も、2年連続の地区優勝を果たしながら、ディビジョン・シリーズでロサンゼルス・ドジャースに敗れた。(それどころか、オーナー会社のシカゴ・トリビューン社が経営破たんした)

 1世紀にも及ぶチームの低迷に、ファンは目先の1勝に喜びを爆発させるようになった。カブスが勝利した日には、ファンは球場周辺のパブ、バー、ダウンタウンの酒場で抑圧された喜びを爆発。生きる喜びを神に感謝するそうだ。

 また、リグレー・フィールドでは、ブリーチャー・バムと呼ばれる集団が名物になっている。外野席に陣取る、上半身裸でビール片手の男たちだ。
 彼らはカブスのファンの中では上級な部類に入ると目されている。敗色濃厚のゲームでも試合を楽しむ極意を身につけているからだ。

 ただ、相手チームのホームランボールが足元に飛び込んできた際には、「こんなもの、要らねぇよ」と、グラウンドに投げ返すことができないと、彼らの仲間にはなれない。