■「アカウントは持っているがほとんど使っていない」

米メタ(旧フェイスブック)は2日、2021年第4四半期決算を発表した。これが投資家たちの予想を裏切る減益で、株価は一時27%下落した。この事実から推測できるように、パンデミックが始まって2年、アメリカのZ世代のソーシャルメディア勢力図は大きく変わりつつある。

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フェイスブックからメタへの社名変更を発表するマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)[同社の動画より] - 写真=時事通信フォト

メタのユーザーが初めて減少したことが株価下落の原因の一つだが、最も目立つのは若者の明らかなフェイスブック離れだ。社会やメンタルへのネガティブな側面が明らかになったことが理由の一つで、日本でもユーザーが多いインスタグラムも将来が危ぶまれている。代わりに急成長しているのがTikTokで、10代の間ではインスタを超える人気ぶりだ。アメリカのZ世代の間で何が起きているのかを探ってみた。

「フェイスブックのアカウントも持っていない」と言うのは、筆者が主宰する「ニューヨークフューチャーラボ」の最年少で18歳のミクアだ。20歳のシャンシャンも頷く。

20代のメアリーとヒカルは、アカウントは持っているがほとんど使っていないという。

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筆者が出演するJFNラジオのコーナー「NYフューチャーラボ ミレニアルZ世代研究所」の収録の様子。 - 筆者提供

パイパー・サンドラーの調べでは、2021年秋時点で、Z世代のうち10代が使っているSNSのトップはスナップチャットで35%、2位はTikTok(30%)、3位インスタグラム(22%)、4位ディスコード(5%)、5位のフェイスブックは2%という結果が出ている。

また別の調査では、2019年以降に10代のフェイスブックユーザーは13%減少し、今後2年で45%減るという予測もあるほどだ。

2003年、ハーバードの大学生だったマーク・ザッカーバーグ氏によって誕生し、ソーシャルメディア時代を牽引してきたフェイスブックは、なぜ10代に見向きもされないプラットフォームになってしまったのか。

理由は1つではないが、コロナ禍によるステイホームやアメリカ社会の分断と切っても切れない関係にあるのは間違いない。それを象徴する出来事が、2021年秋に起こったフェイスブックでの内部告発だ。

■若者の「フェイスブック離れ」が止まらない

2021年10月、フェイスブックと傘下のインスタグラムが、6時間にわたりシステム障害を起こして大騒ぎになった。奇しくもその数日前には、ウォール・ストリート・ジャーナルから衝撃的なスクープ記事が出ていた。

フェイスブックで製品マネージャーを務めていたフランシス・ホーゲン氏が、「フェイスブックのアルゴリズムが政治や社会の分断を助長、1年前の米議会議事堂襲撃事件の原因の一つにもなった」と内部告発。その後米議会下院が公聴会にホーゲン氏を呼ぶなど、社会問題に発展した。

フェイスブックの内情はこれまでも繰り返し論争になってきたが、それよりも若者が憤ったのは、こうした問題をフェイスブック内部ははっきり把握していたにもかかわらず、広告売り上げを優先して対策をとらなかったという事実である。怒りや煽動的なコンテンツは他のどんな投稿よりも早くたくさん共有され、広告収入を考えると最もおいしいコンテンツだからだ。

フェイスブックのイメージはいまや地に落ちているが、実は若者の間ではかなり前から「フェイスブック離れ」が始まっていた。

写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

■親や祖父母が使っている時点で古い

フェイスブックのユーザーは世界中に29億人いると言われ、その人気は絶対的だ。

しかしそれ自体が、フェイスブックをダサいイメージに変えてしまっている。

フェイスブックはそもそも、ハーバード大の学生だけで使われていた閉鎖的なメディアだった。当時大学生だったミレニアル世代は40代に差し掛かり、その上のX世代、60〜70代までフェイスブックの利用者は多岐にわたっている。しかしそれが裏目に出ているのだ。

ファッションにしろ音楽にしろ、10代の若者にとって一番大事な価値観の一つはクールさであり、親や祖父母が使っているプラットフォームはとてもクールとは言えない。フェイスブックの巨大化自体がイメージダウンになるという避けられない結果になったとも言える。

また、デザインがごちゃごちゃしておしゃれではない、広告が多すぎるなどの意見も多いが、古いソーシャルメディアの部類に入ったフェイスブックは、10代の若者の選択肢には入っていないというのが実際のところだろう。

それどころか、10代の間では「インスタ離れ」ともいえる現象が起きている。インスタグラムは2012年、フェイスブックが巨大化する段階で買収した。これが見事に当たり、インスタは若者に圧倒的な支持を得て、「インスタ映え」「インフルエンサー」などの言葉も生まれた。

■10代の間では「インスタ離れ」も

しかし、そのインスタグラムも10代の間では人気が下降している。前出のパイパー・サンドラーの調べでは、2015年には33%でトップシェアに君臨していたインスタグラムは、現在スナップチャット、TikTokに抜かれて3位だ。

ソーシャルメディアにとって10代に支持されなくなるという以上の危機はない。ユーザーをつなぎとめるためにさまざまな変革を試みてきたが、それが裏目に出ているようだ。

ラボのメンバーは10代後半から20代前半のZ世代で、最も使っているのはインスタグラムとTikTokだ。しかしミクアはこう言う。

「インスタグラムは機能がどんどん複雑になってなんだかよく分からない」

インスタグラムはもともと、フィルターを使った加工写真を友達との間で共有する、写真シェアリング・プラットフォームだった。そのシンプルな機能とスタイリッシュなデザインが若者の支持を得た理由である。インスタグラムは自分の美学やアイデンティティを表現する特別な場所だった。

ところが、それが2016年頃から変わり始めた。インフルエンサーが注目されるとそのパワーを利用したショッピング機能が加わる。さらに投稿の順番が時系列からアルゴリズムを利用したものに代わり、上がってくるのは人気コンテンツや広告で、見たい友達のポストはなかなか見つからない。さらに2020年にはTikTokに対抗しビデオ投稿のリールを導入。Z世代のユーザーは、こうした多機能化をフェイスブックと同様クールであろうと躍起になっているように映り、逆にダサいものとして見ている。

しかし、インスタ離れの理由はそれだけではない。

■いいねの数や他人の投稿に落ち込んでしまう

長いステイホームで多くの若者がソーシャルメディアに依存する生活を送る一方、アプリを削除するZ世代も出ている。

20歳の中国系アメリカ人シャンシャンは言う。

「一時はすごくハマっていたのですが、アジア系に対するヘイトクライムの投稿があまりに多くて恐ろしくなり、アプリをすべて削除しました。それ以来ソーシャルメディアは使っていません」

これは極端な例かもしれないが、同じ頃、音楽シーンのスーパースター、メガン・ジー・スタリオンやセリーナ・ゴメスがインスタを一時休止宣言するなどの動きも出ている。

ソーシャルメディアに依存する若者のメンタルへの影響はこれまでも問題視されてきた。いいねの数が増えないと落ち込む、楽しそうな他人の投稿を見て落ち込む……。自分のベストを投稿するインスタグラムでは、誰もが実際の自分よりもよく見せているのが分かっていても、どうしても自分を他人と比べてしまう。それでもやめることができないのは、アルゴリズムの進化によって志向に合った投稿を見つけやすくなり、さらに依存性が高まったからとされている。

■やめたいけど、やめられない理由

「使えば使うほど、自分の体型が悲しくなり自分が嫌になってしまうという悪循環が起きていると思う」とコメントするのはメアリーだ。

前出のフェイスブックの内部告発では、インスタグラムが10代のメンタルに悪影響をおよぼすなど、多くのユーザーが疑っていた事実を認識していたのに、運営側が広告収入を優先して対策しなかったことも同時に暴露された。多くの若者はこれを裏切りだと感じた。

インスタグラムはその後、いいねの数が表示されない設定を導入したが、これが果たして効果があるのかという批判も多い。このような不祥事があっても、結局多くのZ世代はインスタグラムを使い続けている。その理由を尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「プラットフォーム自体嫌いじゃないし、他に選択肢がないから」

日本ではソーシャルネイティブともよばれるこの世代には、もうソーシャルメディアなしでの生活はありえないのだ。

写真=iStock.com/ViewApart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ViewApart

■インスタ超えのTikTok、スナップチャット

フェイスブック、インスタグラムと対照的なのが、世界でユーザー10億人を超えた中国生まれの「TikTok」だ。

アメリカのティーンの間でインスタを超えた理由は、エンタメ性が高く独自のアルゴリズムによる滞在時間の長さが、パンデミックの巣篭もり需要にハマったためだ。Likeやフォロワー数を気にしたり完璧な自分を演出したりするインスタに比べ、素のままでいられる楽しい場所をTikTok上に見つけ飛びついたことも考えられる。

また、数年前まではダンスやペット映像など子供っぽいイメージだったのが、料理やファッション、人種差別反対など社会正義を発信する動画も加わり、大学生や社会人も参入するようになっている。あっという間にユーチューバーならぬ、有名ティックトッカーが続々生まれているのも注目される理由だ。

ちなみに10代に絞ると、ソーシャルメディアのトップはスナップチャットでこちらはTikTokよりも人気が高い。特に10代前半にアピールしており、ビデオチャットだけという機能がシンプルで分かりやすく、限られた友達だけで楽しめるという気楽さで子供たちのソーシャルメディア入門にはうってつけのプラットフォームだ。

しかし、大学生を中心としたラボのメンバーは「中学の時には使っていたけれどもう使っていない」と口を揃えており、子供っぽいイメージがあるために、大人になるともう使わなくなるようだ。

■「ザッカーバーグは欲に走った悪魔だ」

冒頭でソーシャルメディアの勢力図が変わっていると書いたが、中でもフェイスブック、インスタグラムに対して、アメリカの若者は日本人が想像する以上に厳しく見ている。

ラボのメンバーは口々に言う。

「インスタもフェイスブックも広告だらけになった。ショッピング機能までついて金儲(もう)けに走っているとしか思えない」、ケンジュに至っては「マーク・ザッカーバーグは欲に走った悪魔だ」とまで言うほど。

Z世代は社会正義に非常に敏感な世代だ。インスタグラム自体も、2022年のトレンドの一つに「社会正義」を挙げている。それによればユーザーの52%が、人種平等や環境保全など何らかの社会正義に関わるアカウントをフォローしている。

グレタ・トゥンベリさんで知られる気候ストライキもブラックライブスマターも、中心になっているのはZ世代だ。彼らは、社会問題解決の足枷(あしかせ)となっているのは、大企業の利益優先主義や行き過ぎた資本主義だという考え方を持っている。だからフェイスブックやインスタのやり方が、自分たちの個人情報を吸い上げて売ることで搾取している、若者のメンタルや社会を破壊するような投稿であっても売り上げのためなら目をつむり、あまりにも拝金主義的で倫理的でないと憤りを持つ者は多い。

それをさらに倍増させているのが、フェイスブックの新たな動きだ。

■最先端の「メタバース」にも冷ややか

フェイスブックが「Meta(メタ)」と名前を変え、本格的なメタバース(仮想現実)時代の先陣を切ろうとしていることに注目している方も多いだろう。パンデミックの影響もありメタバースはすでに現実になりつつある。人気ブランドが次々にメタバース上での商標登録を進めているというニュースもある。

しかし、メタバースに期待するZ世代は3分の1しかいないという数字もある。仮想空間で生活する未来を描いた映画「Ready Player One」のようなディストピアのイメージが強いからだ。

フェイスブックがメタバースに参入したのも、ソーシャルメディアでの人気下降をカバーするためだと感じており、ユーザーを長時間滞在させることで金をむしり取る金儲けのツールというネガティブな見方が強い。先日の株価下落は、そのメタバースへの移行がうまくいっていないことを象徴している。

2022年のアメリカは中間選挙を迎える。ソーシャルメディア上の情報戦は2016年、20年の大統領選以上に激しくなるだろう。フェイクニュースやディープフェイクにどう対処していくのか、2022年のソーシャルメディア業界はあらゆる意味で過渡期になりそうだ。

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。
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NY Future Lab ミレニアル・Z世代研究所JFN系全国ネット「ON THE PLANET」内で、毎週木曜日午前2時から生放送中。これからの時代の主役となる「Z世代(10代〜22歳)」と「ミレニアル世代(23歳〜38歳)」にフォーカス、アメリカの若者たちが普段何を考え、何に影響を受け、どうした性質や特徴があるのか、さらにグローバルビジネスや海外進出企業も知りたいこれからの消費動向について、ミレニアル・Z世代評論家のシェリーめぐみが座談会形式で彼ら、彼女らの本音を引き出していく。オフィシャルサイトで、ストリーミング配信中。Spotify, Apple, Googleポッドキャストでも配信中。
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ、NY Future Lab ミレニアル・Z世代研究所)