コロナ禍をきっかけに離婚する人は、何を考えているのか。夫婦問題研究家の岡野あつこさんは「これまで浮気をしたこともなかった“マジメ夫”たちの離婚相談が増えている。コロナを機に、生き方を見つめ直した結果だ」という――。
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■「マジメ夫」たちが離婚したがっている

当初、新型コロナウイルスの影響で危機を迎えた夫婦の多くは、そのきっかけがステイホーム期間の長期化によるものだった。「夫と長時間、一緒にいるのは耐えられない」「家事や子育てのストレスに加え、夫へのイライラが募り爆発寸前」といった妻からの悩みもよく聞いた。最悪の場合、夫との生活に見切りをつけ、“コロナ離婚”を決断するケースもあった。

ところが最近では、同じ“コロナ離婚”を考える夫婦にも変化が見られるようになった。というのも、これまでは夫との生活に辟易している妻側からの相談が圧倒的だったのに比べ、最近は夫側からの相談が目立つようになってきたのだ。

しかも、“コロナ離婚”で相談に訪れる男性たちは、至ってマジメな雰囲気を漂わせているのも特徴的。「妻と別れ、愛人と暮らしたい」といった明確な理由もなければ、ギャンブルやDVといった離婚事由にあたる癖が本人にあるとも思えない。いわゆる“マジメ夫”が離婚したいという悩みを抱えているのだ。

なぜ、“マジメ夫”が離婚を考え、実際に行動に移しはじめているのか。具体的な相談例から検証してみよう。

※登場人物のイニシャルと年齢は変えてあります

■結婚生活15年、浮気経験ゼロの夫が下した決断

【CASE1】セックスレスのまま終わりたくない夫

「妻には申し訳ないけれど、今は離婚して第二の人生を歩むことしか考えられない」と静かに心の内を話すのはKさん(46歳)。大学卒業後、就職した会社で2歳年下の妻と知り合い、6年間の交際期間を経て29歳で結婚。子どもはなし。マジメを絵に描いたような性格のKさんは、これまで浮気の経験はゼロ。

「妻以外の女性と二人で食事に行ったこともなければ、誘おうと思った相手もいなかった」

そんなKさんが妻との離婚を考えたきっかけは、「セックスレス」と向き合ったことだった。

「コロナの影響で仕事のペースがゆるやかになった分、夫婦の時間に余裕ができた」というKさんは、コロナの騒動がはじまるまでは会社からの帰宅後も、夜は疲れて寝るだけの毎日。結婚前の付き合いも長く、結婚生活も15年以上になる妻とは、だいぶ前からセックスレスの関係だったものの、特に気にしていなかった。

■「このままセックスをせずに人生を終わりにしたくない」

コロナによって家族の絆を見直す機会を得たKさんは、『もっと妻のことを大切にしよう』と思い、積極的にスキンシップをとろうと考えた。そこで、久しぶりに妻をセックスに誘ったところ、「いまさら無理でしょ」と笑いながら拒まれてしまったという。それから何度か妻に誘いかけても、「無理」「ありえない」「どうしちゃったの?」と応じてもらえることはなかった。

何度も妻にセックスを断られ続けるうちに、Kさんは自分がこれまで忙しさを理由に怠けてきた夫婦関係を深く後悔するとともに、コロナをきっかけに自分の将来を真剣に考えるようになったとのこと。

「このままセックスをせずに人生を終わりにしたくない。かといって、妻とはもうそういう関係が望めないのなら、身勝手は承知で離婚するしかないんじゃないか、と」

現在、Kさんは妻にどうやって離婚を切り出すべきか悩んでいる。

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■慰謝料と養育費を払ってでも手に入れたい生活

【CASE2】稼いだお金を自由に使いたい夫

「妻に離婚を切り出したものの、納得してもらえない」と相談に訪れたのはOさん(39歳)。Oさんもコロナをきっかけに自分の人生を見直したひとり。その結論として、3カ月前に「人生をやり直したい」と妻に離婚を提案したのだという。

Oさんより3歳年上の妻が、突然離婚を言い渡されて真っ先に疑ったのはOさんの浮気だった。「子どももいるのに、私と別れて浮気相手と幸せになろうだなんて、絶対に許さないから」と激怒。怒りのあまり、Oさんに内緒で夫の素行調査をプロに依頼したものの、結果は完全に“シロ”。自他ともにマジメを認めるOさんに女の影はなかった。

実はOさんには、妻との離婚を考える理由がほかにあったのだ。コロナをきっかけに自分の将来を考えた時、「これからは、自分のためだけにお金と時間を使いたい」と思ったのがそれだ。

まだだいぶ残っている住宅ローンと浪費家の妻の金遣いの荒さ、毎月20万円近くかかる二人の子どもの学習塾の月謝代やこれから負担を余儀なくさせられる親の介護費用のことなど莫大な出費のことを計算すると、「自分はなんのために毎日働いているんだろう」と激しいむなしさに襲われたのだという。

Oさんは、後悔しない人生を送るためにも、慰謝料と養育費を払ってでも離婚をし、好きな仕事に就いて稼いだお金を自分の趣味に使い、週末も思い通りの時間を過ごす選択をしたいと熱く理想を語るが、果たして妻に理解を得られるかどうかは未知数だ。

■家族と一緒にいることが、息苦しくなった

【CASE3】「夫」「父」のプレッシャーから解放されたい夫

「妻や母である前に、ひとりの女性でいたい」と願う女性が少なくないように、男性も「夫」や「父」という肩書にプレッシャーを感じる人もいるようだ。

コロナをきっかけにリモートワーク生活をスタートさせたTさん(37歳)は、自宅にいる時間が長くなり、家族とほぼ四六時中一緒に過ごすことになったおかげで息苦しさを感じはじめ、とうとう「離婚も視野に入れている」という深刻な段階まで思い詰めることになった。

■模範的な夫、理想の父親でいられる自信がない

「もともとひとりが好きで、35歳まで独身だった自分が“できちゃった結婚”により妻と子どもという家族を持つことになった。“夫”にも“父”にも慣れない自分は、いまさらだが結婚に向いていないとわかった」

そう薄く笑うTさんは、妻からの愛情も重荷に感じていた、と話す。

「栄養バランスのことを考えて、朝昼晩と玄米と野菜中心のおかずの食事をつくってくれるのだが、実は自分はラーメンやハンバーガーで十分幸せを感じるタイプ。せめて昼くらいは外で食べたいが、子育て中の妻と毎日自宅にいる今はそれも許されないのがつらい」

Tさんはやがて、コロナ禍が収束しても、このままずっと朝から晩まで家族のいる家で仕事をすることになることを想像すると片頭痛が起こるほど、“夫”と“父”という肩書にプレッシャーを感じるようになった。

「コロナ以前は『結婚しても自分は外で好きにやっていればいい』と軽く考えていたが、これからは結婚生活に以前のような自由はないと知った。模範的な夫、理想の父親でいられる自信もまったくない。自分らしい人生を送るためにも、別居するしか選択肢が思いつかなかった」

Tさんは現在、自宅の近くに部屋を借り、ひとり暮らしをしている。妻と子どもとは週末に会うだけのライフスタイルが定着し、あれほど悩まされていた片頭痛はピタリとおさまったという。

■コロナ前からくすぶっていた欲望が姿を現した

「男として“もうひと花”咲かせたい」「自分で稼いだお金は自分に使いたい」「家族の犠牲になるのではなく、自分らしく生きたい」という“マジメ夫”たちが引き起こす反乱は、実はコロナのせいではなく、コロナよりずっと前から自分自身のなかにくすぶっていた本音ベースの欲望であるはず。

コロナというウイルスが与える影響が大きくなり、「これからどう生きていくか?」という問題を、一人ひとりに突きつけられる局面に立たされた時、その眠っていたはずの欲望が顕著になってきたのではないか。一度きりの人生を自分でデザインしていく権利は誰にでもあるのだ。

もちろん、結婚していれば話は別。妻や子どもという家族がいれば、自分だけ身勝手な選択をすることは許されるはずもない。大事なのは、「自分と家族がどうしたら全員幸せになれるか?」を考えること。そのためにはまず、意見の衝突を恐れず、本音で話し合うこと。失うものも大きいのが離婚だからこそ、急ぐ必要はまったくない。離婚はしないに越したことはないのだ。

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岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家
NPO日本家族問題相談連盟理事長。株式会社カラットクラブ代表取締役立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに25年間、3万件以上の相談を受ける。『最新 離婚の準備・手続きと進め方のすべて』(日本文芸社)『再婚で幸せになった人たちから学ぶ37のこと』(ごきげんビジネス出版)『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)など著書多数。
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(夫婦問題研究家 岡野 あつこ)