北朝鮮は今後どうなるのか。米国で長く国防長官諮問委員を務めた政治学者・グレアム・アリソン氏は、産官学の各界が連携する「日本アカデメイア」主催のシンポジウム「東京会議」出席のために来日した。アリソン氏が口にしたのは「第2次朝鮮戦争」という悪夢のようなシナリオだった――。(第5回/全5回)
写真=EPA/時事通信フォト
環太平洋連携協定(TPP)交渉の閣僚会合を終え、共同記者会見する日米など12カ国の閣僚ら(アメリカ・アトランタ、2015年10月5日) - 写真=EPA/時事通信フォト

■第2次朝鮮戦争が勃発する可能性はかなり高い

――北朝鮮情勢に詳しいアリソン氏は、そのリスクは最近、極めて高くなったと警告を発する。

北朝鮮は非常に危険な状況を展開していて、(シンポジウムが行われた12月12日から)数週間のうちに悪化するでしょう。金正恩朝鮮労働党委員長は、また大陸間弾道ミサイル(ICBM)や核兵器の実験に走るのではないかと思います。可能性としては、とても大きい。

それに対してトランプ大統領が新年に北朝鮮の発射台を攻撃してICBMの実験ができないようにすることが考えられます。もしアメリカがそれをすれば、第2次朝鮮戦争が勃発するかもしれません。その可能性はかなり高いです。

■金正恩は「第2次朝鮮戦争」のシグナルを出している

第2次朝鮮戦争になる可能性は50%以上ではない。しかし、かなり大きな可能性があるということです。そのリスクは最近、劇的に上昇しました。

2017年の初めに北朝鮮は一連の実験を行い、その最後が2017年11月だったと思います。一方でトランプ大統領は攻撃すると脅しをかけ、互いにやりとりがあり、その時のいろいろなレトリックを覚えている人も多いと思います。

この半年で北朝鮮の金正恩氏が言っているのは、合意によってアメリカと国連が北朝鮮にかけている制裁緩和がなければ、2019年末までに新しいフェーズに入るということです。金正恩氏はこの先何をするつもりかということについてシグナルを出しています。

もしそれがICBM実験も含むのであれば、どうなるか。彼が前回、実験をやめる前に、トランプ大統領の方では北朝鮮のミサイル発射台を攻撃して実験をやめさせると言ったのです。米国防総省はすぐにそれをできる能力を持っています。それでは、北朝鮮は一体何をするのか。この疑問にあまり想像力はいりません。つまり、第2次朝鮮戦争は彼らにとってのオプションになると思います。

■中国エリートは香港人を「悪ガキ」と呼んでいる

――話題はアジアでもう1つの不安定要因である香港情勢に及ぶ。香港では市民によるデモが長期化し、一触即発の状況が続く。

西洋化された香港は、脆弱性があると思います。欧米の信念、アメリカの独立宣言が言っているように、全ての人間は生命、生存、幸福の追求という普遍的な権利を持っています。それは人間にとって自然のことであると書いています。多くの香港の人たちはそれを信じていると思います。つまり、彼らもイギリスの香港返還の合意の中に入っているような、こういう権利を享受したいと当然、思っています。

今年、私は中国に5回ぐらい行ったと思うのですが、そこで中国の見解についていろいろな世論を見てきました。しかし、香港のデモに共感する人たちはほとんどいないようでした。中国の他の都市でもそのようなことが起こってしまうといけません。

そして、ほとんどの世論調査によると、エリートの人たちは香港人のことをbrats(悪ガキたち)と呼んでいます。つまり、若い人たちがあまりにも特別な場所にいて、それに慣れてしまっていて、そういう意味で中国国内の人は香港人に対してあまり共感は持っていないようです。同情もしていないようです。

――第2次朝鮮戦争などアジアが有事に陥れば、日本を含めた東アジアの諸国には重大な影響を及ぼす。これを回避するためには国際社会が知恵を出す必要がある。とりわけ日本の役割は重要になる。

第1次朝鮮戦争は、日本に対してはもちろんですが、アメリカや中国にも大きな影響を及ぼしました。従って、現在の対立が戦争に向かってしまうかもしれません。このような状況には今、対応するべきです。これはアメリカと中国だけの問題ではありません。アメリカと北朝鮮、アメリカと中国の問題でもありません。やはり日本も関係し、役割を果たすことができる問題だと思います。

■日本はもっと大胆に「TPP」を活用するべきだ

日本の役割について。日本は控えめで、傍観者のような役割を果たす傾向があったかと思います。私は初めて日本に来たときから、日本はもっと大胆になって、積極的な役割を果たした方がいいと思っています。

英知や知恵は、ワシントンや北京、パリでの独占事項ではないのです。我々が直面している問題は全員の問題であり、日本ももちろんその結果から影響を受けるので、その問題に対応できなければ、日本もその被害を受けます。

日本は何をすべきかということについてアイデアを提供できるでしょう。日本の役割としては、自分に何ができるか、そしてどのような違いを生み出せるかを考えてみることを提案します。

――日本が今後果たすべき役割は何か。具体例としてアリソン氏は米国抜きのTPPを挙げた。

その事例として、安倍政権の成功を称賛したいと思います。環太平洋連携協定(TPP)について、最初はアメリカが主導権を握って交渉していたのですが、トランプ政権になってからアメリカはその交渉から離脱し、TPPは死に絶えたとまで言いました。しかし、日本政府はそれを蘇生させました。良い例示だと思います。2021年1月にアメリカで新政権が発足したら、アメリカはまた戻ってくるかもしれません。

----------
グレアム・アリソンハーバード大学ケネディ行政大学院 教授
核兵器、ロシア、中国、国家安全保障を専門とする。国防次官補、国防長官顧問、国防長官諮問委員などを歴任。近著に『米中戦争前夜』がある。
----------

(ハーバード大学ケネディ行政大学院 教授 グレアム・アリソン 構成=プレジデントオンライン編集部)