年々、過激化する渋谷ハロウィン。商店街の人たちが、今後、渋谷ハロウィンをどうしていきたいのかを聞いた(写真:アフロ)

2018年の渋谷のハロウィンでは、参加者の一部が暴徒化して、暴力行為や痴漢、盗撮などが横行し、ついにはトラックを横転させる者まで現れた。今年9月に出版された『ジャパニーズハロウィンの謎』では、渋谷センター商店街振興組合理事長である小野寿幸氏、そして同・副理事長の鈴木達治氏へのインタビューを実施。商店街の人たちが、今後、渋谷ハロウィンをどうしていきたいのかを聞いた(インタビュー実施日は2019年6月11日)。

ハロウィンは「変態仮装行列」

小野理事長(以下、小野)「1番目がカウントダウン、2番目がサッカー、その次に出てきたのがハロウィンなんですね。例えばロンドンのハロウィンでは、大人はパブの中で騒いで、外では絶対に騒がない。郊外ではお子様のイベントになっている。

ところが、ここのハロウィンは『変態仮装行列』。とんでもないです。6、7年前からあれっという間に参加者が倍々に増えて、去年はトラックが倒されて問題になった。マスコミも今まではあおる傾向にあったんですけど、さすがに同情的になってきました」

ハロウィン当日のセンター街の売り上げは普段より大きく下がるといい、今では18時以降は路面店を閉めているそうだ。ハロウィンには経済効果があるのにもったいない、という論調を、小野理事長は「あんなのマイナス経済効果だよ」と一蹴した。センター街の店舗の従業員も、店から駅まで行くのが難しく、帰るのに困っているという。

0時までに帰宅するよう渋谷区が訴えかけても、皆、終電で渋谷にやってきてしまう。イベント化・ルール化して抑えようという動きもあったそうだが、参加者たちは結局イベント後にセンター街に集まってくるだろう、というのが小野理事長の見解だ。

小野「だから、変態なの。モラルのない人にモラルの話をしてもぬかにくぎ。センター街の中に警備車両、機動隊を入れてほしい。警備態勢で抑えていこう、と僕は言っています。渋谷には『若者の街』という冠が付くから、その若者を追い出すとはどういうことか、という声もある。ところが、あれは若者ではなく『バカ者』。しかも、地元の企業や若者は参加していない。渋谷区の人は、あんな騒動しないんです」

最近は全国的にハロウィンの様子が放送されることから、名古屋や仙台からハロウィンの渋谷にやってくる中学生などもいるらしい。厳密に数えることは不可能だが、集まる人のうち仮装しているのは3割だけともいわれている。参加するのではなく、ただ見に来ている人が7割はいるのだとか。取材のために訪れたわれわれゼミ生も、その中に入るだろう。

どのような思いから若者がハロウィンのセンター街に集まるのか。小野理事長の口からは、以下のような回答が得られた。

小野理事長の強い意志

小野「自分の所属している会社に満足していない人や、組織から外れかかった人がいっぱいいるのかな。その人たちの鬱憤や不満がここに集まっているんじゃないですかね。自分の地域であんな格好したら疎外されるんじゃないかな。センター街へ来たら、同じような人ばかりいるから、すぐ友達になる。都会には注意する人がいませんからね」

渋谷区役所にインタビューしたときは、若者の街のイメージを保っていきたい、なるべく規制はしたくないというスタンスだった。しかし、商店街側には少し強固な姿勢を見せていかなければならない、という意識があるようだ。

小野「追い出すより受け入れてモラルを作ろうと言うけど、『バカ者』に対しては無理だと思うね。若者を冷たく追い出したくない、という考えがあるみたいだけど、悪いことする人に優しくできないもんね。緩やかさの中でも、ダメなものはダメって線を引かないといけない」

また、2019年6月に成立した路上飲酒禁止の条例に関しても、理事長らは「ハロウィン」と銘打ってほしいそうだ。小野氏と鈴木氏からいただいた「『渋谷センター街』が考える ――渋谷ハロウィーン検討会の現時点での整理と方向性――」という資料によれば、「仮称『ハロウィーン対策条例』といった条例」について、「渋谷区、商店会連合会、警察などが一致団結して対応するということを内外に知らしめるために必要」というコメントが続く。

小野「『ハロウィン』と銘打てば、マスコミが食いついて区長も僕らもコメントを出せる。そうすれば、『あいつらうるせえよな』『もう行くのやめようぜ』という抑止にもつながる。規制して痛い目に遭わせないと、もう効かないんですよ」

鈴木副理事長(以下、鈴木)「『渋谷は騒げる』という風潮が出来上がっていますから。マスコミは2018年の軽トラを機に、あおりから同情に変わり、今度は『渋谷、どうするの?』と追い詰める方向になってきている。これを機にインパクトのある対策、改革を打ち出さないといけない。オリンピックもありますし、今年がタイムリミットでしょうね。区長としては『違いを力に』と言っていますけれど、われわれとしては『間違いを力に』してはいけませんから」

商店街を封鎖してもいい

規制や封鎖を行わなくてもどのみち売り上げは落ちている。だから、商店街としての強固な姿勢を印象付けるために、思い切ってセンター街を封鎖するレベルの対策をとってもいいのではないか、というのがお二人の意見だ。

鈴木「行ってもつまらないな、と思わせるぐらいでちょうどいいですから。恐れないで大胆にやってほしい」

小野「ハロウィンのときに僕が『変態仮装行列』と発言したら、苦情は1件しかなかった。あとは『よく言った』『確かにそうです、応援します』といった応援、共感の声が30通ぐらい届いた。3カ月前に言っていたら、流行語大賞にノミネートされただろうね(笑)。騒ぎが自然消滅するように、逆にマスコミを用いて改革していかないといけない」

――今後の渋谷、今後のハロウィンは、どういう方向にもっていきたいとお考えですか?

小野「もともと来ていたファミリー客は、怖くてハロウィンの時期の渋谷には来られないんですよ。今の区長は、安心安全の治安とにぎわいを一緒に走らせたい、という考え方。でも僕は、治安が先にいけば、にぎわいは後からついてくると思う。

渋谷もヨーロッパを見習って、商店街のスタンプラリーのような新たなハロウィンを提供しようと言っています。要するに、お店の中でやる。そうすれば、お店側もウェルカム。従業員が仮装をしてお客さんを迎えるとか、方法はいっぱいでてくるはずです」

理想は「家族が安全に楽しめる渋谷」


『家庭と防犯』(2019年2月)においても「若者の街・渋谷はファミリーが楽しめる街へ」というタイトルでお二人へのインタビューが掲載されていた。

ロンドンのように屋内で上品に楽しむハロウィン、家族が安全に楽しめるような渋谷を作っていくことが、小野理事長らの理想なのだ。

「変態仮装行列」「バカ者」といった表現は非常にユーモラスだが、センター街や近隣住民、買い物客が受けている被害は決して笑えるものではない。「若者の街」のイメージと安心・安全な街との狭間で葛藤する渋谷を、商店街、そしてパトロール隊の立場から支えるお二人の熱い思いが伝わってくるインタビューだった。