●iWorkとの違いその1iPhone向けにMicrosoft Officeアプリが無償公開された。同様のアプリとして、AppleにもiWork(Pages、Numbers、Keynote)があるが、具体的にどのような点が異なるのか。細部の機能比較はまたの機会に譲るとして、ここでは「Office文書を扱う際の肝心なこと」を中心に、ユーザがもっとも気になるであろう点を6つピックアップしてみよう。

・1. ファイル互換性の安心感

これまでExcelやWordで作成した文書量が多ければ多いほど、「ファイル互換性」については気になるところ。Microsoft Officeの場合、Microsoftが開発する"純正アプリ"なだけに、互換性についてはそれ以上を望むべくもない。マクロ/VBAやアドイン、カスタムフォームといった機能はサポートされないが、それはiWorkも同じこと。既存文書を確実に開ける安心感、それがMicrosoft Office最大のアドバンテージであり、ビジネスユーザに歓迎されるポイントだろう。

・2. サポートされるフォント

サポートされるフォントの違いも、Office文書の扱いという点では大きなウェイトを占める。フォントが違えばレイアウトに影響し、文書の雰囲気も変わってくる。文書にデザイン性が高く外部フォントを利用することが多いプレゼンテーション文書(PowerPoint)はともかく、ExcelやWordはデフォルトのフォントで作成されているものが多く、MS明朝/ゴシックに対応するMicrosoft Officeにとっては大きな強みとなる。

・3. Android対応

iWorkはAndroidに対応せず、今後の対応も期待できないが、MicrosoftはAndroid版Officeも2015年初頭には一般公開を開始する予定。同じMicrosoftが開発する"純正アプリ"であり、異種プラットフォームとのファイルのやり取りを前提とする場合の安心感は大きい。取引先のプラットフォームを選べないビジネスユーザにとって、ファイル互換性と並び重要な評価項目となるだろう。

●iWorkとの違いその2・4. サポートされる関数の数(Excel/Numbers)

ExcelとNumbersでそれぞれビルトイン関数の数をかぞえたところ、Excelの343に対しNumbersは268と、数においてはExcelがNumbersを圧倒していることを確認できた。PCのExcelで作成したワークシートをiPhone/iPadで使うシチュエーションが多いことを考えると、NumbersにはあるがExcelにない関数は問題となりにくく、その点でExcel優位な項目といえる。ただし、Numbersもひととおりの関数をサポートしているうえ、関数の機能を説明するドキュメントの内容は断然充実しているため、個人ユーザでは評価が逆転するかもしれない。

・5. 他のiOSデバイス/Macとの連携

他のiOSデバイス/Macとの連携は、やはりNumbersが有利だ。ExcelもOneDrive(Microsoftが提供するオンラインストレージサービス、旧称SkyDrive)に対応するほか、サードパーティーのサービスとしてDropboxに対応するが、クラウド(iCloud)上への文書保存をデフォルトにして他のiOSデバイス/Macとの連携を高めているNumbersのほうが、使い勝手では頭一つ抜けている。ただし、自由に使えるストレージサイズはOneDriveのほうが圧倒的に大きく(15GBまで無料)、ユーザが抱える文書の量と使用目的によって評価がわかれそうだ。

・6. iWorkは「アドオン」不要

アドオンを購入することなく全機能が無料、という点はiWork最大のアドバンテージといえる。NumbersとPages、PowerPointはいずれもOffice 365のサブスクリプション(In-App Purchaseで購入可能)を契約しないかぎりグラフを新規作成できないが、iWorkは標準の機能で対応できる。OS X Mavericks以降、MacユーザにiWorkが無償提供されていることもあり、費用の心配なしにオフィス文書を制限なく使える/作成できることのメリットは大きい。

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このようにまとめると、Microsoft Officeの機能制限(グラフの新規作成機能はオプション扱い)が目立つが、iPhone/iPadではPCで作成した文書を閲覧/加工することがメインで、大規模な編集作業は行わないという現実を踏まえると、あまり気にならない。グラフも作成済のものは表示できるため(セルに数値を入力すれば再描画される)、実際のところアドオンを購入しなくてもやり繰りできる。

むしろMicrosoftの狙いは、個人ユーザに限っていえば、Windows/Mac2台までのライセンスを含む月額1,200円のサブスクリプションサービス「Office 365 Solo」に割安感を与えることにありそうだ。ほぼフル機能のiOSアプリの投入により、これまで取りこぼしていた短期需要をどれだけ拾えるか、市場の反応に注目したい。

(海上忍)