W杯代表選手は、なぜ噛みついたのか。そもそも人はなぜ「噛みつく」のか。それは原始的かつ動物的な衝動によるものだが、問題は、想像以上に広く行われている行動で、しかも非常に強力だということだ。

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ブラジルW杯のグループリーグにおいて、イタリアはウルグアイに敗北した。試合はひどい始まり方だったが、終わったときはもっとひどかった。

しかし6月24日、ナタールのスタジアムで行われたのは、「ひどい」サッカーだけではない。アッズーリ(イタリア代表チームのことだ)が自分たちのゴールを守るために走っていたときのことだ。ウルグアイチームのFWルイス・スアレスは、例のことを「また」やった。「人食い」の異名を得ることになった、あの偉業だ。

スアレスは審判の目を盗み、相手チームのジョルジョ・キエッリーニの肩に噛みついたのだ。キエッリーニは審判に彼の退場を求めたが無駄だった。

試合ののち、FIFAは公式にこのウルグアイの選手について調査を開始した。そして、ヴィデオ素材を分析して、必要であれば出場停止を検討する(訳注:26日に処分が下り、公式戦9試合出場停止、4カ月間サッカーに関するすべての活動が停止となった)。

わたしたちは科学的観点から、この問題に取り組んでみよう。人間が同族を攻撃するとき、なぜ噛むことを選ぶのか。だって「噛む」なんて手段は馬鹿げていて、効率が悪く、結局のところ不快でしかないはずなのに。

My apologies to Chiellini: pic.twitter.com/CvfkkjxzlM

— Luis Suarez (@luis16suarez) 2014, 6月 30

7月1日、スアレスは自身のTwitterに謝罪文を掲載した。

同様の事例は、当然のことながらスアレスだけにとどまらない。彼の前にも、残念なことにマイク・タイソンがイヴェンダー・ホリフィールドを噛んだことがあった。しかし、それだけではない。「Motherboard」が報じているように、ラグビー、とくにスクラム中に審判がはっきりとプレーを見ることができないときには、よく行われている行動だ。

こうした事例について言えば、アメリカ国立衛生研究所の2007年の研究は、人間による噛みつきが、救急病院で処置されたすべての噛み傷の事例の20%を占めていることを明らかにした(これは、イヌやネコのすぐ次だ)。

この研究には続きがある。まず男性は、女性と比べて噛み傷を受ける確率が12%高い。そして、報告されている事例のほぼ90%において、アルコールの過剰摂取が関係していた。つまり、酔っ払いやアドレナリンのあふれる男たちは、パブやスタジアムで、吸血鬼になる傾向があるのだ。

なぜこうしたことが起こるのか? 昨年BBCのインタビューを受けたスポーツ心理学者、トーマス・フォーセットによると、これは「計画的ではない行動、本能に起因する自然発生的な感情的反応」なのだという。

感情的な反応はおいておこう。実際のところ人類のあごは、霊長類のなかでも最も強力なもののひとつであることを、「Proceedings of the Royal Society B」で公開された別の研究が明らかにしている。研究の著者の1人、スティーヴン・ローは、「わたしたちの咀嚼器官は非常に強力で、大型のサルと比べて1.5倍にも及びます」と説明する。

キエッリーニはいま、そのことを痛感していることだろう。

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