2014年05月26日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

前編はこちら>オンラインパブリッシングサービスのクロスオーバー時代(前編)

前編で述べたように、まずは個人のための情報パブリッシングツールとして生まれたブログが、企業向け簡易CMSとして進化した。そして、商用であっても無償で利用できるWordPressが台頭したことで、いまでは多くの大企業サイトやニュースメディアに使われている。

以前は重厚長大のテクノロジーから、徐々に軽量、ライトなサービスモデルへと移行することが自然だった。まず複雑で高機能な商品が開発され、次に簡易版としての仕様へダウングレードされ、一般消費者向けに届けられた。

たとえばワープロのような文書作成機は最初にオフィスで使われて、徐々に自宅で使う汎用機として普及した。ところが、インターネットやソーシャルメディアが普及した世界では、まず一般の消費者が使いはじめて、次に企業ユーザーが利用するという流れがふつうになった。メールやブログはもちろん、Skypeや Twitterなど枚挙にいとまがない。

多くのベンチャー起業家が愛用しているMacもそうだ。まずMac OS XからiPhone用のOSがつくられ、タッチスクリーンによる直接的な操作方法や、加速度センサーを前提としたインターフェイスがiOSの仕様として確立した。その後、新たにiOSで生まれた機能がMac OS Xの正式機能として採用されて、MacBookシリーズに搭載される。僕はこの流れを、テクノロジーが川下から川上に逆流した瞬間だと考えている。

かんたんなものからはじまり、複雑あるいは本格的なほうへと技術移転されるという新しい商品化の流れが、いくつかの分野で明確に見えてきた。一部の専門家が策定した仕様に基づく開発ではなく、むしろなんの予備知識もない一般消費者たちの利用体験からフィードバックを得て、徐々に機能追加をしていく。商品のつくり方にもフラットでソーシャルなプロトコルが取り入れられはじめたといえよう。

さて、本題であるオンラインパブリッシングサービスについてまとめよう。オンラインパブリッシングサービスは、現在大きく分けて3つの領域があり、それぞれが発展しつつ、クロスオーバーしつつある。

まずは、企業がそれぞれ囲うデータセンターにあるサーバ(あえて彼らのデータセンターをクラウドとは呼ばない。グローバルサービスではないし、所詮ドメスティック、いやローカルなマーケットに最適化されたサービスだからだ。真にクラウドと呼べるのはAmazon、Googleだけ、あるいはMicrosoftを足した3つのサービスだけだ)にインストールされた個別のCMSがあり、そこにコンシューマーソフトウエアから進出したWordPressが浸食を行なっている。

さらにWordPressを擁するAutomattic社が運営するSaaS型のWordPress.comがあり、大きなシェアをもっているが、そこにWeeblyやWix、SquareSpaceなどの新興CMSが乗り込んできている。WordPress.comはその名の通りオンラインでWordPressが利用できるサービスだから、ブログベースのサービスといえよう。しかし、コンペティターとして名乗りを上げた挑戦者たちのサービスは、ブログベースではない。彼らは最初からオンラインで作成し、オンラインで更新することを前提に設計された新しいCMSだし、モバイルサイトを提供することに長けている。さらにいえば、ブログではないもののブログの特徴であるパーマリンクをもち、さらにFacebookやTwitterなどのソーシャルネットワークとの親和性を最初から視野に入れている。この市場は中小企業・プロシューマ向けのCMSだ。僕らが開発し、ベータローンチしたばかりのDino.vcもまたこの領域に属する。

そして最後に、TwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークのように、最初からすべての人と並列にコンテンツをシェアするのではなく、自分発信の情報をパブリッシュするためのツール、つまりオウンドメディアを運営するためのツールが再興してきた。それは、個人メディアとしてはブログを置き換えるものだ。代表ツールのひとつが、Mediumである。Mediumは本コラムでも何回か紹介したが(参考:Twitter創業者たちの次なる挑戦)、ブログにとても近く同時に遠い。そしてTwitterにもまた近くて遠い。それもそのはずで、MediumはTwitterとブログツールの走りであるBloggers.comの双方を開発したエヴァン・ウィルアムズのプロダクトだからだ。

そして、このオンラインパブリッシングサービスにおいても“テクノロジーが川下から川上に逆流”するのであれば、いまは100%個人向けのサービスであるMediumが、やがて中小企業市場にも使われはじめ、いつかはエンタープライズ市場においても選択肢のひとつに入るかもしれない。実際、明哲な人たちは、Mediumはまずニュースメディアなどの領域でWordPressをリプレスするかもしれないとみている。

日本においてもMediumのクローンといえるnote.muのようなサービスが出てきており、まずはアメブロの領域に浸食していく可能性がある。その後はMedium同様、中小企業向けCMSのひとつに数えられるようになるかもしれない。また、Dino.vcは中小企業向けCMSであるが、コンシューマ向けのパブリッシングサービスとしても使われるようになるかもしれない。すべてのサービスがクロスオーバーして進化する。そういう大きな変化が、全体を見ても細部を見ても起こりつつある。そういうおもしろい時代がきているのだ。


Medium
https://medium.com/

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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