3月21日から第86回センバツ高校野球大会が始まる。今大会は、昨年のセンバツ準優勝投手の済美・安樂智大、夏の選手権優勝の前橋育英のエース・高橋光成(たかはし・こうな)が不出場となりスター不在がささやかれているが、意外なところからスターが誕生する可能性もある。

 そんな中で注目を集めているのが、佐野日大(栃木)の左腕・田嶋大樹と智弁学園(奈良)の右のスラッガー・岡本和真だ。

 田嶋は鹿沼ボーイズに所属した中学時代に全日本に選ばれ、世界選手権3位になるなど実績十分。182センチの長身から最速145キロを誇り、安定感も抜群。昨秋の栃木県大会では28イニング3分の2を無失点に抑える好投を見せ、関東大会の準々決勝では優勝候補の横浜(神奈川)を破り、甲子園出場の原動力となった。

「以前は立ち上がりが悪かったんですけど、秋の大会から父親に『試合前は早く起きてジョギングしてから行け』言われてやったら、アップの時から体の感じが違う。1回からしっかり球が行くようになりました」

 時折、サイド気味になり腕の位置が一定しないなどの課題はあったが、ひと冬越えてどこまで成長しているのか楽しみは尽きない。注目の初戦は大会3日目、第3試合。鎮西(熊本)と対戦する。

 183センチ、95キロの岡本も橿原磯城シニアで日本代表に選ばれ、4番を打つなど中学時代から評判の逸材。高校2年生だった昨年、1年間で48本塁打を量産し、高校通算では56本塁打を誇る。

 スラッガーでありながら、昨秋の公式戦は打率.632の高打率をマーク。さらに特筆すべきは、7試合、30打席で三振がゼロということ。「当てにいかず、ボールに対して強く振るだけ」と強振するスタイルである上に、「秋はボール球が増えたのに、打ちにいってしまった」と反省する内容でこの結果だから驚かされる。ただ、センバツ直前になって腰痛を抱えていることが判明。注目度が高く重圧とも戦わなければならないだけに、本領発揮できるかどうか。岡本擁する智弁学園は、大会4日目、第1試合で三重と対戦する。

 このふたりと並び、知名度、注目度ともに抜群なのが横浜の浅間大基、高濱祐仁だ。昨夏の神奈川県大会で桐光学園のエース・松井裕樹(現・楽天)からこのふたりが一発を放ったのは記憶に新しいところ。関東大会ベスト8ながらセンバツに選出されたのはふたりの存在があったからといっても過言ではない。それだけ全国のファンに見たいと思わせる選手だ。

 関東大会で対戦した佐野日大の田嶋に「威圧感がすごかった」と言わせた浅間。昨秋まで高校通算本塁打は22本。内角打ちのうまさに加え、一塁到達4秒0台の俊足、さらに強肩と三拍子揃う上に、「野球を始めた時からプロになるためにやってきた」と意識も高い。冬場に左鎖骨を疲労骨折したのは気がかりだが、大舞台でどんなバッティングを披露するのか楽しみだ。

 ロッテの内野手としてプレイする卓也を兄に持つ高濱は、1年春から4番に座るなど大きな期待を背負ってきた。高校通算23本塁打。昨年夏の甲子園でも初戦の丸亀戦でレフトスタンドに一発を放り込んだ。だがその後は、一発を狙うあまりバッティングを崩し、9打数1安打。昨秋も徹底した内角攻めにあっさりと凡退する打席が目立つなど、まだ潜在能力を出し切れていない。右のスラッガーでありながら、外の変化球を軽打して安打にできる才能を持ち合わせているだけに、センバツで本来の力を発揮できるのか注目だ。

 そしてこの4人に続くのが、投打で注目を集める日本文理(新潟)の飯塚悟史と明徳義塾(高知)の岸潤一郎のふたり。186センチ、83キロの飯塚は、昨秋の明治神宮大会決勝の沖縄尚学戦でセンターバックスクリーンを越える特大の一発を含む2本塁打。大会3本塁打の圧倒的パワーで度肝を抜いた。

 北信越大会までは軸足に重心を残すフォームだったが、神宮大会からは前足を軸に変えて開眼。「前で打つようにしたら、面白いように打てるようになりました」と本人も手応えをつかんだ。神宮の活躍で強打者として注目されるが、本人の意識はあくまでもピッチャー。2年春に腰を痛めたことでフォームを崩し、昨夏の甲子園では3番・ファーストでスタメン出場。救援でマウンドに登ったが、「夏のフォームはめちゃくちゃひどいので人に見せられないぐらい恥ずかしい」。この冬はかつぐようになっていたテークバックの修正などに時間を注いできた。投手としてもアピールできるか注目だ。

 一方、1年時から甲子園のマウンドを踏む岸は経験十分。馬淵史郎監督も「アイツが3点以上取られることはない」と絶大な信頼を寄せている。昨秋までは直球とスライダーが主だったが、冬の間にフォークやチェンジアップなどタテの変化を磨いて投球に幅が出るよう取り組んできた。昨秋4番・投手だったが、秋まではベンチ外だった山形堅心の成長で春は6番を打つ構想もある。負担が軽くなれば、マウンドでよりよいパフォーマンスも期待できるだろう。

 野手では阪神内野手の史也を兄に持つ八戸学院光星(青森)の北條裕之、神宮大会で対戦した三重の沖田展男監督が「塁に出た時点で(盗塁を刺すことを)あきらめた」という龍谷大平安(京都)の俊足外野手・徳本健太朗、俊足好打の三重・長野勇斗らのプレイにも期待したい。

 昨年の甲子園を沸かせた安樂と高橋は出場しないが、多くの逸材たちが集うセンバツ。新たなスターが誕生するのか楽しみでならない。

田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka