大都市エリアで核爆発が起こった場合、どのような場所にどのようなタイミングで避難すべきかを、さまざまなケースについて分析した論文が発表された。

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大都市エリアで比較的低出力(10キロトンまで)の核爆発が起こったとしても、どう避難すべきかわからない。多くの人の状況はそうだろう。

だが、心配はいらない。核の灰によって体が少しずつ汚染されていく中で、どのような場所にどのようなタイミングで避難すべきかを、さまざまなケースについて説明したガイドの草案というべき論文を、数学者マイケル・B・ディロンが発表したからだ。

ローレンス・リバモア国立研究所に属するディロン氏によると、爆発が起きた後ただちに適切なシェルターが見つかれば、10,000〜100,000人の命が、放射性降下物による死の危険から救われるという。適切なシェルターとは、放射線を防ぐよう重い材質で作られた地下室等の建物だ。

政府機関も、シェルターを探すことを常に勧めている。米連邦政府のガイダンスは、「核爆発の直後に取るべき最も適切な最初の行動は、一番近い場所にあり、遮蔽性が最も優れた建物に避難することだ」という文章で始まる。

だが、ディロン氏の論文は、数式による徹底した計算に基づいて、それぞれの状況に応じた避難時間を割り出している点でユニークなものだ。例えば、遮蔽性に劣る避難場所にとりあえず避難したものの、適切なシェルターに行くまで15分ほどかかる場所にいる場合は、爆発から30分間は今の施設に留まり、それから適切な施設に移動した方がよい。だが、適切なシェルターがすぐ近く(5分以内の距離)にあるなら、ただちにその施設に向かうべきだという。

Image:Michael B. Dillon

「ここで展開している手法では、適切でない避難場所を離れる最適な時間を、最終的な放射線被ばく量が最も少なくなるように計算している」とディロン氏は説明する。とりわけ同氏は、浴びる放射線の量を最小限に減らすことだけでなく、「生理的ストレスを最小限にし、リソースを効率的に割り当てることで、全体的な死者の数を可能な限り減らす」ことを意図している。

この論文は、緊急計画作成担当者が低出力の核爆発への最適な対応策を検討するときに役立つことが期待されている。低出力とは、0.1〜10キロトンの出力のことだ。1キロトンは1,000メートルトンのTNT(トリニトロトルエン)に等しい(広島に投下された原爆は15キロトン相当、長崎は20キロトン超とされる)。

これまで実験が行われた最大規模の熱核兵器は、旧ソヴィエト連邦の「ツァーリ・ボンバ」で、57,000キロトンという驚くべき高出力だった。ただしそれでも、当初計画されていた100,000キロトンから50%ほど抑制されていたのだ。この爆弾がひとつでもロンドンに落ちれば、シェルターのことなど忘れるしかないだろう。

Wikipediaによると、イスラエルとスイスでは、学校や病院等の公共施設に市民シェルターがあり、国民には防毒マスクが無料で支給されている。スウェーデン、フィンランド、ノルウェーも、公共の場に市民シェルターの用意がある。全人口に対し、何%の人を収容できるシェルターが存在するかという率は、スイス・イスラエル100%、米国82%、英国67%、日本は0.02%という調査結果がある。