●初代ダンボーバッテリーに込められた譲れない"こだわり"
スマートフォンユーザーの多くが日々悩まされている、外出先での電池切れ。それを受けて、出先でも充電できるモバイルバッテリーがさまざまなメーカーから発売されている。その中でも存在感を放っているのが、ティ・アール・エイの「cheero」ブランドから発売されている、漫画「よつばと!」に登場するキャラクター・ダンボーをデザインしたモバイルバッテリーだ。

2013年5月に発売された第1弾製品「cheero Power Plus 10400mAh DANBOARD version」はあっという間に品切れとなり、これまでに10万台以上を売り上げる大ヒット商品となった。その第2弾として2013年12月に登場した新製品も、余裕をもって用意した在庫があっという間に売り切れとなり、発売からわずか1週間足らずで数万台の販売実績を打ち立てている。

キャラクターとのコラボ製品はちまたに多くあるが、それらとは一線を画した人気を誇る"ダンボーバッテリー"の魅力を探るため、ティ・アール・エイ cheero事業部の東潤氏に、その開発秘話やモノにこめた"こだわり"をうかがった。

――最初に、ダンボーをデザインした製品を生み出した「cheero」というブランドについて教えてください。

「cheero」は、「生活をちょっと便利になる安くていいモノ」を提供したいという気持ちで立ち上げた、モバイルバッテリーを主軸としたモバイルガジェット製品群のブランドです。弊社はもともと機械部品の会社でして、そこで培った品質管理や検査等のものづくりのノウハウを生かしながら、中国の協力工場の持つベースモデルを日本市場向けにアレンジすることで高い品質ながら低コストを実現しています。また、最初はWeb通販(EC)で直接販売することで販売コストも削減し、徹底して「安くていいモノ」をお届けできるよう務めてきました。

○ダンボーバッテリー開発のきっかけ

――では、そんなブランドから「ダンボーのかたちのバッテリーを出そう」と決めたきっかけは何だったのでしょうか?

弊社のモバイルバッテリーを取り上げてくださった、ブロガーのノリロウさんの記事です。ノリロウさんはダンボーが大好きで、弊社の「cheero Power Plus 10400mAh」の横に、ダンボーの「リボルテック(※海洋堂の関節可動フィギュアシリーズ)」を置いて写真を撮っていたんです。私はここで初めて、ダンボーというキャラクターを知りました。

そして、自分たちでもダンボーのリボルテックを買って眺めているうちに、「ダンボーをアレンジした製品を作ったら面白いんじゃないか?」というアイデアを弊社デザイナーが発案し、そこから版権元のよつばスタジオさんとお話をして、一緒に製品開発をさせていただくことになりました。初代ならびに2代目の製品は、パッケージから本体までよつばスタジオ様側でデザインしていただき、監修していただいています。我々がメーカーとしてダンボーの世界観を大切にし、よつばスタジオ様とお話を繰り返した結果が、プロダクトとしてうまく形になったと思っています。

――初代のダンボーバッテリーである「cheero Power Plus 10400mAh DANBOARD version」は、製品の表面が凹ませてあるなど、かなり手が込んでいる印象を受けました。キャラクターのコラボレーション製品の多くは既製品の上に印刷を施しているパターンが多い中、あえて本体自体の加工を行ったのはなぜですか?

初代のダンボーバッテリーは、四角い形をした既存製品(cheero Power Plus 10400mAh)をベースにしてコストを削減していますが、おっしゃる通り、顔の部分は金型を新たに作り直しました。そうすると金額にして100万円ほどかかり、制作期間としては約3カ月程のびるのですが、可能な限りキャラクターの世界観を壊したくなかったんです。なので、いくらコストがかかってもいいから、目と口だけは凹ませようと決意しました。

ただ、実を言うと、このことで社長の説得が必要でした。社長はものづくり畑の人ですので、「高品質で低価格なモノを作る」という信念を強く持っているんです。その視点から見ると、私たち制作チームが意識していたキャラクターに対する愛着や、クリエイティブに関するコストをかける姿勢に理解を得にくい部分もありました。しかし、説明を繰り返し納得してもらい、金型の再制作を行うことが決まりまして、それにかかる時間を活用し、既存製品では銀色だったボタンのカラーを金色に変更したり、デフォルトでは青色のLEDを黄色に変えたりと、できる限りのアレンジを施して、ダンボーのイメージに近づけた製品にしていきました。

――そのほか、初代のダンボーバッテリーで苦労された点は?

大変だったのは、サプライヤー(製造業者)に対する色の出し方の指示ですね。初代の製品では、4〜5回くらい作り直して今の状態になりました。我々が作っているのはあくまでも「商品」なので、クリエイティブの詰めに関してはどこかで落としどころを見つけなくてはいけないのですが、ダンボーらしいモノにするため、何度も粘って作り直してもらいました。

●「目が光る」ダンボーバッテリーの制作エピソードを公開
○二代目のダンボーバッテリーはモバイル性と"らしさ"で出来ている

――続いて、今回発売された二代目のダンボーバッテリー「cheero Power Plus DANBOARD version -mini-」についてうかがいます。この製品は御社の既存のバッテリーのどれとも似ていないのですが、いちから型を作ったのでしょうか?

はい、二代目のダンボーバッテリーの型は新規で作りました。初代のダンボーバッテリーのベースとなったモデルを販売していた当時より、ユーザーから「重い」という意見が寄せられていましたので、製品の軽量化はもともと検討していました。そして、初代のダンボーバッテリーについて、Web上に「目が光ればもっとよかった」というレビューが多く上がっていたことから、「光る目を持つコンパクトなダンボーバッテリー」を作りたいという思いはありました。

――先ほどおっしゃった通り、二代目のダンボーバッテリーにはインジケーターとしても機能する光る目が搭載されています。これは「よつばと!」作中にある表現を再現したものですが、ダンボーの目が光るようにするために、どのような工夫が必要だったのでしょうか?

目を光らせること自体は、LEDを設置するだけの話なので、そこまで大変ではありませんでした。ですが、この製品の設計にあたって意識したのは、キャラクター性を優先するあまり、本来のバッテリーの機能性を失わせてはいけないということです。

ダンボーには目がふたつ、三角の口がひとつあり、それが表面に乗ることは決まっていますので、それ以外に余計な部品はつけず、かつダンボーらしさを出すためにはどうしたらいいんだろうと試行錯誤しました。原作の描写にならって、頭の右側に出っ張ったスイッチをつける案も出ましたが、私たちが今回開発したのは持ち歩いて使うバッテリーなので、機能性を損なってはいけないと思い、最終的には口をスイッチにして、目を三段階に光らせることで、電池残量を知らせるインジケーターの機能を持たせる仕様に決定しました。

――二代目のダンボーバッテリーに関して、そのほかの工夫した点を教えてください。

持ち歩く物であるモバイルバッテリーの性質上、ある程度、安全性を考慮して角の部分にアール(丸み)は付けないといけませんが、丸くしすぎると段ボールらしさがなくなってしまいますので、その調整は工夫しました。

ほかにも、口のところをスイッチにするにあたり押しやすい深さで掘り下げるなど工夫しましたが、一番苦労したのは目の光の色ですね。最初は直感的に電池残量が分かりやすいと思って信号機の色(青・黄・赤)にしたんですが、試作してみたところダンボーらしさが薄れてしまって……。その失敗を経て、やはりダンボーらしい色は黄色ベースなんだと気づきました。バッテリーの残量は3段階くらいで示さないと使いにくいので、最終的に黄・オレンジ・赤という3色を採用しました。

――バッテリーの電池残量が一番少なくなると目が点滅するのは可愛らしい演出ですが、この機能はどうして搭載したのでしょう?

多くのモバイルバッテリーには、直感的に残量がわかるように5段階くらいのインジケーターがついています。しかし、今回はダンボーらしさを大切にしたかったので、目の光だけで完結する現在の仕様に落ち着きました。

○ダンボーというキャラクターの魅力

――そんなこだわりはユーザーに届いたようで、初代に続き、二代目のバッテリーもAmazonで入荷待ちとなっています。開発当初から、ダンボーバッテリーには大きな反響があるだろうと予想されていましたか?

いえ、初代を発売した当初は予想していなかったです。ダンボーのファンがいるということは分かっていましたし、ある程度までは売れるとは思っていましたが、ここまでの規模になるとは想定していませんでした。そして、フタをあけてみて驚いたのが、「「よつばと!」もダンボーも知らないけれど、このバッテリーはかわいい」という理由で買ってくれた方が多くいらっしゃったことです。

つくづき、ダンボーのデザインってすごいな、と思っているんです。顔は●ふたつと▲ひとつだけで構成されているのに、見る角度によって悲しげになったり、逆に嬉しそうに見えたりして、何ともいえない味わい深さがありますよね。それが老若男女問わず受け入れられた理由だと感じるところでもあります。もちろん、ダンボーは我々のキャラクターではないですが、このモバイルバッテリーの海外展開など、わたしたちのできる限りのことをして広げていきたいなと思っています。

――ちなみに、すでに初代のダンボーバッテリーを買った人も、2代目の新製品を買っているのでしょうか?

はい、そういう方も多いと聞いています。コレクター的な動機で購入してくださる方もいらっしゃいますね。

ただ、別の見方をすると、初代と2代目とでは容量やサイズが違うので、使いわけをしていただくことができるとも思っています。例えば、スマートフォンを1台だけ使っている方であれば、二代目のダンボーバッテリーを普段使いに、旅行に行くときは初代のものを使っていただくなど、状況に応じて使い分けできるようなライフスタイルの提案を我々からしなくてはいけないなと思っています。

○同社がダンボー「以外」のキャラ製品開発から得たものは?

製品開発に関わる人すべてがダンボーというキャラクターを愛し、しかもバッテリーとしての機能もおろそかにせず真正直な"ものづくり"を行ったことが、現在の売れ行きにつながっているのだと感服させられるエピソードばかりとなった。インタビューの後半では、cheeroの海外展開にかける思いや、ダンボー「以外」のキャラクターコラボ製品に挑戦した際に東氏が痛感した、「愛されるモノを作るために必要なこと」に迫っていく。こうご期待。

(杉浦志保)