【森雅史の視点 / オーストラリア戦の勝利で大会初優勝に王手をかけた日本代表。ザッケローニ監督の勝負勘は戻りつつある】

ザッケローニ監督が初めて大胆な采配を見せた。

先日の中国戦。2点のリードを追いつかれ3-3の引き分けに終わったゲームから、ザッケローニ監督は11人の先発メンバー全員を入れ替えた。もともと、今回の日本代表は新顔が多く、ただでさえ連係面に不安がある。それでも中国戦で実戦経験を積んだメンバーは戦術理解が進んだはずだった。だが、そんな経験値を一切捨て去るという思い切った手を使ったのだ。

個々人が自分の力を示すだけの展開になるのではないだろうか。試合前の記者席ではそんな予想もあった。実際に試合が始まっても、ビルドアップでボールを持ってはパスコースを探す場面や、攻撃の意図がかみ合わないシーンが続いたりしていた。

25分、個人で状況を変える選手のおかげで、日本はリードを奪い、落ち着いていく。齋藤学がJリーグ大宮戦で見せた横に動くドリブルで相手の穴を探り、ループで先制点を入れたのだ。

後半に入ると攻撃の連係面は改善された。55分、鈴木大輔のパスを豊田陽平が落とし、そのボールを齋藤がまたぐ。相手がつられたところで大迫勇也が突破し、追加点を挙げた。

ところが守備面ではコンビネーションがギクシャクし始め、75分、78分と中央を破られて2失点。中国戦の悪夢が蘇るかにみえた。

そんな悪いムードを一新したが79分。工藤壮人からのボールを、豊田がダイレクトで落とす。そこにまたも大迫が現れ、決勝点を蹴り込んだ。日本らしい連係プレーで勝利を収めたのだ。

では、この試合の采配に問題はなかったか。

あった。61分、ボランチを扇原貴宏から山口螢に入れ替え、その山口が絡む中で失点を喫した。また、齋藤を工藤に交代させた直後に失点を生んでしまったのも、勝負や試合の流れを考えると適切な時間ではなかった。

一方で、逆転を生んだのはザッケローニ監督が短期間でチームに浸透させた「日本代表の戦い方」だった。リードすると栗原勇蔵を投入し、見事にクロージングさせたのも適切だったと言えるだろう。

ただし、考慮しておくべきことがある。オーストラリアの記者が「今回の取材は楽だ。選手も監督もいつもみんな笑っている」と試合前に嘆いていた。相手の真剣度を考えると、選手総入れ替えでも勝って当然だったのかもしれない。

それでも、そんな相手にメンバーを入れ替えて勝ち、韓国戦での引き分け以上で初優勝を狙える状況になったというのは、ザッケローニ監督の采配と戦略の効果だと言えるだろう。日本代表を初めて率いた試合でアルゼンチンに勝ったり、交代選手がボレーを決めてアジアカップに優勝したりという強運も戻ってきたようだ。

だがまだ安心はできない。この試合では功罪半ばした。28日の韓国戦で初優勝を決めてこそ、ザッケローニ監督の采配にもキレが蘇ってきたと本当に言えるだろう。

■東アジア杯/第2戦/2013年7月25日
日本 3−2 オーストラリア
(会場:韓国・華城競技場)