企業のITリソースが社内からデータセンターへと移行し、また社員が自宅や出先などの社外から企業のネットワークへとアクセスするという流れが加速することを受けて、企業ITの世界ではネットワーク技術に高い関心が寄せられている。

そうしたなか、ネットワーク機器の世界的なトップベンダーである米NETGEAR社の設立者であり、代表取締役会長兼CEOを務めるパトリック・ロー氏に、現在のネットワークテクノロジーをめぐるトレンドと、そこから見えてくる将来像に対して同社がいかなる戦略を描いているのかについて話を聞いた。

──まずは世界におけるネットワークテクノロジーのトレンドについての見解をお聞かせいただけますか。

いま世界では3つのテクノロジートレンドが、企業IT、そしてビジネス自体に大きな影響を与えつつあると見ています。

その1つ目が、エンタープライズ向けのネットワークがクラウド志向へとシフトしていることです。現在、実用的で魅力的なクラウドアプリケーションが次々と誕生しています。そのため10年後には大企業でもほとんどのITリソースをデータセンターへと移行して、ほぼすべての業務をクラウドアプリケーションで行うようになると予想しています。

一方でSMBの世界では、既に半分以上のアプリケーションでクラウドアプリケーションが使われていると言っていいでしょう。そうした企業では、既に自社でデータセンターを有することはなく、アマゾンやグーグルといったクラウドベンダーのデータセンターを利用しているわけです。

次に2つ目は、こうしたクラウドを活用するなかで非常に重要になってくるハイスピードアクセスの普及があります。例えば現在、グーグルは米国カンザスシティで100Gbpsの超ハイスピードアクセスネットワークを構築中です。

クラウドの大きなアドバンテージとして、多種多様なデバイスからアクセスできるという点があります。現在、3G回線のアクセススピードはせいぜい1Mbps程度ですが、これが有線だと10Gbpsのハイスピードアクセスも可能となっています。さらにワイヤレスでも日本のLTEでは70Mbpsでの通信を実現していますし、再来年には100Mbpsを超えるLTEアドバンストのサービスも提供される予定です。またWiFiでは既にGビットの速度を可能とするIEEE802.11ac規格がありますし、LTEも含めてこれからはGビットワイヤレスの時代を迎えることになります。企業は、そうした超ハイスピードなワイヤレスアクセスをいかに活用するかがとても重要となってくることでしょう。

そして3つ目がBYOD(Bring Your Own Device)です。BYODが導入されれば、社員は自由に自分が使うデバイスを選択できるようになります。そこで大きなリスクとなるのがセキュリティです。あらゆるデバイスから自社のネットワークにいかにセキュアにアクセスできるかが、BYODの成否を分ける鍵となるわけです。

──そうしたトレンドを踏まえて、NETGEARではどのような戦略を打ち出しているのでしょうか。

現在、当社が抱えているのはSMB市場ですが、これからはエンタープライズ市場にも積極的に売って出て行きます。なぜならば、クラウド化が進んで企業のITリソースがデータセンターに集約されるようになると、ユーザー企業にとってはこれまでのような大きく複雑なネットワークよりも、小さくシンプルなアクセスネットワークの活用の方が必要になってくるからです。これはまさに我々がSMB市場で強みとしている分野であり、今後そうしたテクノロジーがエンタープライズ市場にも広がっていくというわけです。

そしてクラウドというのは、高速なアクセスネットワークがあってこそその真価を発揮するものです。既に当社は有線のネットワーク機器では廉価な10GBスイッチ製品を数多く販売していますし、ワイヤレスではこれまでの無線LANコントローラー、無線LANルーター・アクセスポイントなどに加えてLTEワイヤレスゲートウェイ製品にも注力していく構えでいます。その布石として、この4月には米国Sierra WirelessのLTEビジネスを買収しました。