――すーちゃんの料理シーンが印象的でしたが、柴咲さんご自身は料理は好きですか?

柴咲:好きですね。ただ、波があります。パートナーとか子供がいる訳じゃないから、義務感が無いので、作りたい時は作る、作りたくない時は作らない。人それぞれ向き不向きがあるから(笑)。でも、たまにでもやると、自分をケアしてる感じもあるし、命を頂いているという感覚が、外食ばかりだとどうしても薄れちゃうと思うんですよね。

 すーちゃんを演じた時は不思議と心が凪の状態で、たまにポチャーンと波紋が広がるみたいな状態だったから、撮影も早く終わるんですよ。まずスーパーに行って、家に帰ってご飯作って寝るみたいな、毎日そんな感じでした。役を考えつつ、自分の人生も考えてた感じですね。

――すーちゃんは、職場のマネージャーに片想いをしていますが、恋愛観について共感したことはありますか?

柴咲:いっぱいあります。私もその時によるけど、大概引いちゃって、受け身になるから。期待したり、妄想も得意だけど、実際に自分が仕掛けるのはなかなか出来ないタイプで。したたかになりたいと思うことは何度もあったけど、そうすると自分じゃない気がするし。実は結構、臆病ですね(笑)。

――すーちゃんは臆病だけど、自分をすごく大切にしていてましたが、そんな彼女に共感できましたか?

柴咲:もちろん共感した所だと思います。かと言って、自分に満足したり、全部を肯定できるかと言ったら、そうではない。外部から言われたことに揺らぎすぎたり、「もっと強くなりたい」「もっと毅然としてればいいのに」と思ったり。そうも行かない時が過去にはいっぱいあったし、すーちゃんも少しずつ傷付いてる子だと思うけど、必要なのは「じゃあ、自分はどうしたい?」という所だと思うんですよね。日々、小さなことを選択していく内に、気に入る人が現れた時、上手いこと繋がると思うんですよ。「きっと、こっちの方が、周りが都合いいだろう」と妥協したり、自分の本音を押し殺してしまうと、いい縁があったとしても、既にすれ違ったりしてるのかなと思っちゃうんですよ。

――撮影を終えて、今は不安から抜け出せましたか?

柴咲:ここ一年ぐらいが特に過渡期で、色々と心に変化が起こっていて、随分強くなってきてると思いますね。どこか周りのせいにしたり、期待し過ぎちゃったりしてたけど、自分の人生は自分で作っていくしかない。それが楽しいんだとやっと気付けた気がします。

――何か変わるきっかけがあったのですか?

柴咲:節分で、自分の中にいる鬼が出て行ったんです(笑)。人の持つ固定観念とか先入観とかって、あまり好きじゃないけど、自分も持ってる訳ですよ。それが無駄だなと思って、リリースした感じ。でも、それまでには悶々と、漠然と不安な時期があって、頭の中でずっと堂々巡りしてたけど、やっぱり自分に返ってきた感じだと思います。世間とか他人を変えるより、自分を変える方が楽みたいな。

 「パブリックイメージを覆したい」という気持ちはあったと思いますね。何を作っても結局そこにハメようとするから。肩書きとかも「仕事、何してるの?」というのは普通の質問だけど、「こういう仕事をしてるということは、経済的にこうで」みたいな、自分の先入観をメチャクチャ投入するじゃないですか。それが煩わしいと感じていた所はありますね。特に二十歳前後とか、二十代前半の方が強くて、抵抗したかった。「あなたは、こういう人ですよね」とか言われると、「なんで私のこと分かるのよ!」みたいな所が強かった時。今は全然「はい、そうかもしれないですねー」みたいな(笑)。

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