こうすることで、拠点装置が「衝突が発生する可能性がある」と判断する根拠ができる。
もしも「停止させないと衝突する」と判断した場合には、当該列車に対して停止の指令を送るのだが、これも無線で行う。
また、前方にカーブがあって速度制限が発生するときに、当該列車に対して減速の指示を出すという応用も可能だ。
豪雨や強風といった場面で速度制限をかけることもできるだろう。
移動閉塞システムのキモは、個々の列車が正確に自車位置を検出し続けることと、列車と拠点装置の間で確実に情報をやりとりし続けることだ。
だから、移動閉塞の死命を制するのは無線通信システムということになる。
通信を途絶させないだけでなく、エラー訂正の仕組みや、妨害対策・セキュリティ対策も必要だろう。
また、停電した場合に安全側に働くような設計も求められる。
そして、長い鉄道路線を単一の無線基地局でカバーするのは非現実的であり、しかも地形に阻害される可能性もあるので、全線をくまなくカバーできるように無線基地局を設置する必要がある。
つまり、無線基地局をきっちり整備する必要があるのだが、それでも現行のような信号保安システムを整備するよりはシンプルにできるという考え方だ。
そして、ある無線基地局の担当範囲から別の無線基地局の担当範囲に列車が移動すると、通信相手を切り替える必要があるが、これは携帯電話で行っているハンドオーバーと同じ考え方だ。
新幹線の車内で通話していてもハンドオーバーで途切れることはそうないのだから、絵空事というわけではない。
エラー訂正や暗号化にしても、すでに移動体通信の分野で実現している技術を応用できる。
この移動閉塞システムこそ、JR東日本が仙石線(あおば通-東塩釜間)で導入したATACS(Advanced Train Administration and Communications System)のことである。
実は、すでに実運用試験を行う段階まで開発が進んでいるのだ。
また、ヨーロッパではEU(European Union)がERTMS(European Rail Traffic Management System)という運行管理システムの構想を進めており、その一環としてETCS(European Train Control System)という保安システムの導入構想を進めている。
ETCSには複数のレベルがあるが、ATACSと同様の移動閉塞を行うのはETCSレベル3である。
ただし、まだETCSレベル3は実用段階に達していない。
ATACSにしろETCSレベル3にしろ、地上設備にかかる経費の節減を図れるだけでなく、無線によるデータ通信を活用することで、列車と拠点装置の間でやりとりできる情報を多様化できる利点もある。
そして、車両の性能を考慮に入れて最適な制御を行うことで、効率的な運行が可能になると期待できる。
コンピュータ技術や移動体通信技術が発達しなければ、こうしたシステムは実現できなかっただろう。
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