今季のチャンピオンズリーグ本戦に出場した選手の国籍は、全部で62か国に及ぶ。FIFA加盟国全体のこれはおよそ3分の1近くに達する数字だ。チャンピオンズリーグの本戦は、W杯本大会より国際的。ピッチ上には様々な国の選手が入り乱れている。「スポーツに国境はない」を地でいく美しくも壮観な眺めだ。決勝の場合はそれにいっそう拍車が掛かる。例年、両軍選手の国籍の数は十数か国を数える。対戦するのは2チームだが、多くの国の国民がそれを当事者として観戦する。チャンピオンズリーグ決勝の舞台に漂う国際色は、他にあまり類を見ない珍しいものになる。

 スタンドには毎度、出場する選手の国籍と同じ数だけ国旗が揺らめいている。パク・チソンがスタメン出場した08〜09シーズンの決勝の舞台(ローマ・オリンピコ)には、大韓民国の国旗を確認することもできた。宇佐美がベンチ入りした昨季のスタンドに、日章旗の姿を確認することはできなかったが、その晴れの舞台に自国選手を送り込めている国のファンが、胸を張りたくなる気持ちは大いに理解できる。W杯で日本代表がピッチに立つ姿を見るより、はるかに高揚しそうな気がする。

 その可能性を高めるためには、とにかく本大会に出場する選手の数を増やすことだ。今季の出場者は2人(香川と内田)。この数は世界的には、オーストリア、イスラエル、カーボヴェルデ、北アイルランド、赤道ギニア等と並ぶ38位タイになる。順位はけっして高くない。近い将来、大幅に人数が増えそうな気配もしない。

 欧州でプレイする日本人選手の数は一頃に比べ、確かに増えているが、それは日本人が思うほど画期的な出来事には見えない。比較対象を日本の過去に求めれば、画期的な話かもしれない。着実に数を伸ばしているが、日本サッカーの世界的ポジションを考えると、もっと多くても何も不思議はない。

「欧州」と一口に言っても範囲は広い。アメリカの「メジャーリーグ」とは比較にならない。Jリーグよりレベルの高いリーグは、最低10もある。その1部リーグが20チームで構成されているとすれば、最低200チームも存在する。

 かねがね僕は、チャンピオンズリーグ本戦に出場する32チームを欧州1部、欧州リーグ出場する48チームを欧州2部と見ているが、少なくとも「欧州で活躍する選手」とは、この80チームの中に収まるチームでプレイしている選手に定義づけないと、それは過大評価に繋がるあまりに曖昧な解釈になる。日本人選手のレベルアップは認めるが、彼らが欧州へ移籍できている大きな理由はなにより安さにある。タダ同然の移籍金が、欧州のクラブには大きな魅力に映っていることは間違いない。

 ちなみに今季、欧州リーグに出場した日本人選手は4人(酒井高、岡崎、長友、細貝)。「欧州で活躍する選手」とは、前述の2人に本田を加えた7人に過ぎない。

 チャンピオンズリーグはいわば、W杯の組替え戦だ。そのW杯で日本代表がベスト16以上を運やフロックに頼ることなく狙おうとするのなら、チャンピオンズリーグには、少なくともチリ、スウェーデンレベルの数(出場者7人=20位)を送り込む必要がある。欧州リーグにも10人ぐらいは送り込む必要がある。でないと、選手に真の経験は備わらない。

 比較対象を過去に求め、良くなった、レベルが上がったと考えるのは愚かだ。以前「日本サッカーはほんとうに強くなったか」なるタイトルの本を見かけたことがあるが、かつての日本に比べて、弱くなっているはずはないのだ。選手の技量は、年とともに上がるのがサッカーの特徴。足でボールを扱う競技なので、その技術が落ちることはまずない。サッカーゲームの戦い方も退化することはない。日本のレベルは上がっているに決まっている。が、同時に世界のレベルも上がっている。(面白くなったか否かはともかく)強くなったか否かは、日本の過去ではなく現在の世界に比較を求めない限り、本来、見えてこないものなのだ。