南米でもほぼ同時期に普及し、多くのクラブチームが誕生、国内リーグも誕生していた。つまり、サッカーの普及と定着という点でヨーロッパと南米は大きな差がないわけだが、南米で最初にサッカーが盛んになったのはウルグアイだ。次いでアルゼンチンか。ウルグアイは1920年代にオリンピック金メダルの連覇を成し遂げている。ブラジルはサッカーが伝わるのがワンテンポ遅かった様だ。第2次大戦前は南米の新興勢力というポジションでウルグアイを追いかけていた。まあそれでも日本より断然歴史は長いけどね。


■万吉:
20世紀初頭から日本人のブラジル移民が本格化し、農奴のような扱いに耐え、農場経営や医師などの専門職で成功する日系ブラジル人も増えた。そういう意味でブラジルは、日本人にはわりとなじみがある国ではあるな。

第二次世界大戦中は日本との国交が途絶えて情報も遮断し、戦後長いこと大日本帝国の勝敗について「勝ち組」「負け組」が争うなどちょっと信じられないことが続いたようだ。バブル経済のころは群馬県太田市などの工場地帯に大量の日系ブラジル人子弟がやってきた。彼らは、見かけは完全な日本人だが中身は完全なブラジル人。現在では彼らの多くが日本に定着してブラジル人コミュニティーも形成されている。それぞれ地球の表裏に位置する日本とブラジルは人種とはなにか、文化とはなにかということを考えさせられる人的交流がある。

★珍蔵:
話は変わるが、ブラジルの首都をリオデジャネイロやサンパウロだと思っている人が多いが、首都は「ブラジリア」という近代都市だ。僕の様に建築を学んだ人間は、大学の都市計画などの授業で一度は耳にする名前だよ。

■万吉:
人工的に作り上げられた都市だろう。世界遺産にもなっている。建築学の中で、何故ブラジリアがそれほど重要なんだい?

★珍蔵:
ブラジリアという都市がル・コルビジェという、20世紀以降の建築にもっとも影響を与えた建築家の理想を、ほぼ純粋な形で具現化しているからだよ。ル・コルビュジエは、「輝く都市」や「ユルバニズム」に代表される著作の中で、秩序ある都市計画に基づく理想的な都市像を繰り返し提示しており、その都市計画は20世紀初頭にすでに混迷をきわめていたヨーロッパの大都市の問題を解決するための方法論だった。それをブラジル人建築家がブラジリアで実践したわけだ。

しかしブラジリアは、莫大な建設費による財政の圧迫、衛星都市のスラム化、河川が無いために大企業の本社移転が進まないことによる経済不活性、市民生活の不便さ等々、近代都市計画の失敗の最たる例として上げられる事も多い。一番批判されているのが車優先の交通システムに依る生活の不便さと言われている。

■万吉:
昔、実際にブラジリアに行った記者仲間の話を聞いたことがあるが、評判は良かった様な記憶があるけどな。

★珍蔵:
まあ明快な動線と首都機能のゾーニングによって政府の要人や観光客は短時間で行きたい場所にアクセスできるし、それは同行するマスコミも同様だろうからな。何より、近代的デザインが都市の風景を魅力的にしているから、その美しさに心を奪われるのだろう。実際、そこで暮らした経験のある人は素晴らしかったと言っている人も多いようだ。

■万吉:
最近、リオデジャネイロで同州治安当局が警察や軍部隊などの治安部隊を投入し、同市最大のファベーラと呼ばれるスラム街を制圧したというニュースがあった。リオデジャネイロは、2014年にサッカー・ワールドカップ、2016年には南米初となる夏季オリンピックの開催を控えており、治安向上がインフラ整備と共に最大の課題となっているが、その障害となっているのがファベーラを根城とする治安の悪さだ。ファベーラは、麻薬密売組織が事実上支配しているといわれる。