その匂いをしっかり伝えられる方法を選ぶという感じ。そういうことを感じられる生活が日常にあるから、その按配がうまいんだと思いますね。毎日の生活の中で、長く団体でグループでいても、お互いがストレスを感じないこと、言いたいことを言っても、言われても、ストレスを感じない按配。そういう匂いを感じとれるトレーニングになっていることは確かです。チームでよく賭けトランプだってやることあるんですね。だんだんみんな熱も入ってきてうるさくもなりますね。そろそろ寝たいやつも部屋にいて「あれ? こいつ大きな声を出したら嫌っているなあ」とか。同じ部屋に一緒にいて、常に気を遣っているわけではないんだけど、そういう按配を、ストレスにならない程度にすごく気にしている。一緒に生活をしながら、空気を匂いながら、輪を乱さない生活ができているんですよ。

一緒にいてベタベタと同調するのではなくて、言いたいことを言い合いながらも同じグループにいることが大事。その距離感を保っている。先に話したボカや北京五輪のアルゼンチン代表はみんなが同じ部屋にいてそういうコミュニティがありました。他の部屋にいけばいいのに行かないんですよ(笑)。そこがサッカーの面白みにも繋がるような気もするんです。無理して一緒のことをやらなくていいということ。一人ひとりの個性を出しながらグループを保つということです。

日本人もみんなでマテ茶を飲め、と言っているわけではないですよ(笑)。銀メダルを獲得したバトミントンの二人が、ずっと一緒にいるのが嫌ではないと。バトミントンをやるときだけ、サッカーをやるときだけ一緒ということではない。僕が驚いたのは、ああ、日本人もそういうことが嫌ではないのかあ、ということ。部屋に一緒にいるけれど、気を遣ってなくて、言いたいことも言う。喧嘩もするけれどまた次の日には集まっている。今回の五輪を見ていて、日本人もそういう雰囲気になってきたのかなあと感じましたね。

そういう流れの中で、僕が日本人が苦手だと思っていた団体競技でも続々と結果を出しました。日本人のメンタリティーも少しずつ変わってきているかなと思いましたね。個人競技に向いているのでは? と勝手なイメージをもっていた国が先々には団体競技がお家芸になったり、ブラジル、イタリア、アルゼンチンなど今まで団体競技や球技が得意だろうと思っていた国が、個人競技でもっとメダルを獲れるようになったりする。まあ、今回のサッカーは男女とも素晴らしい戦い結果を出しましたね。そんな明るい将来を想像しながら、これは足りている、これは足りていない、何を伸ばして何を取り入れ、取り入れないのか。それらを考えていくと夢は広がりますが、オリンピックは終わっても寝られないですなあ。

※構成:鈴木康浩

■亘崇詞プロフィール
1972年、岡山県出身。サッカー指導者・解説者。1991年、単身アルゼンチンに渡り、ボカ・ジュニアーズとプロ契約を結ぶ。高原直泰がボカに加入した際には通訳となる。東京ヴェルディのジュニアユース監督を経て、現在は日テレ・ベレーザのコーチを務める。

■鈴木康浩プロフィール
1978年生まれ、栃木県宇都宮市出身。作家事務所を経て独立。現在はJ2栃木SCを中心に様々なカテゴリーのサッカーを取材。「週刊サッカーマガジン」「ジュニアサッカーを応援しよう!」などに寄稿している。