人間の性格とは概して多面的なものである。
たとえば、ある側面で大雑把な性格をしているからといって、その他のすべての面においても大雑把というわけではなく、側面が変わればたちまち神経質な部分が顔を出したりする。
したがって、雨の日に不良男子が子猫を抱いていたとしても、それは人間として当然の多面性のひとつであり、簡単にギャップを感じて胸を熱くしないでくれ、と世の女子に釘を刺しておきたい。
よほどの鬼畜でもない限り、誰だって小動物はかわいいものです。
妻のチーにもそういった多面性はある。
彼女の血液型はA型であり、さらに両親や姉弟も全員A型という生粋のA型家系で生まれ育ったからか、その性格の一面は非常に細かく几帳面で、ともすれば神経質でもある。
しかし、その一方で驚くほどルーズかつ間抜けな一面も併せ持っているから、人間はわからないわけだ。
たとえばテレビやエアコンのリモコンがどこかに散乱するなんてことは日常茶飯事であり、ましてや最近のチーは夜な夜な一人でカーヴィーダンス(人気トレーナー・樫木裕実によるエクササイズ)の教則DVDを観ながら踊っているものだから、DVDのリモコンまで部屋のあちこちに放置されている。
当然、自転車の鍵やケータイ電話を家の中で紛失することも多い。
外出前の物探しは山田家名物のひとつだ。
さらに先日はこんなこともあった。
僕が打ち合わせに出かける前、着ていく予定のシャツにチーがアイロンをかけるというので、僕はひとまずシャツをチーに預けた。
チーはそれを受け取るなり、そそくさとアイロンがけの準備を始め、僕はその間に他の身支度を開始する。
身支度が終わったころにはアイロンがけも終わっているという段取りである。
ところが身支度が終わり、いよいよ家を出る時間が迫ってきたというのに、一向にアイロンがけが終了しない。
シャツを渡してから20分は経過したにもかかわらずだ。
不思議に思った僕が状況を訊いてみると、チーは途端に慌てた素振りを見せた。
なんでもアイロンを温めている間、ちょっとネットサーフィンに興じていたらそのまま夢中になってしまい、アイロンのことをすっかり忘れてしまっていたというのだ。
さすがに呆れた。
どこまで間抜けなのだろう。
結局、その日はアイロンを必要としない素材のシャツを着ることにした。
スーツ着用義務の仕事ではなかったことが救いだ。
また、チーがインスタントラーメンを作っていて、どういうわけか汁がすっかりなくなってしまったこともあった。
本人曰く、乾麺を鍋で茹でているときに少し目を離しただけなのに、いつのまにか鍋に伸びきった麺しか残っていなかったらしい。
きっと「少し目を離した」というのは本人のイメージであり、真相は何十分も経っていたのだろう。
とにかくチーは何かひとつのことに気をとられると、その前のことを忘れてしまうという、不器用な面を持っているようだ。
これで手先は驚くほど器用なのだから、本当に多面的だ。
ところで、こういう人間の多面性は、小説や漫画といった作者個人の創作世界では実に細かく描写できたりする。
特にストーリーよりも人物描写に重点を置いた作品は、そこが醍醐味のひとつだ。
いわゆるステレオタイプの人間なんて現実には存在しない。
しかし、ドラマや映画ではこれが少し難しかったりする。
かつて僕が映像や舞台の脚本を書いていたころ、ある役者が自分の役についてこんな悩みを吐露していた。
「脚本をちゃんと読んだつもりなんですけど、演じるキャラクターのつじつまが合わなくて困っているんです……」つまり、こういうことだ。
一般的に脚本には配役の台詞と設定、最低限の動きしか書かれておらず、小説や漫画に比べて人物の情報量が圧倒的に少ない。
たとえば、ある側面で大雑把な性格をしているからといって、その他のすべての面においても大雑把というわけではなく、側面が変わればたちまち神経質な部分が顔を出したりする。
したがって、雨の日に不良男子が子猫を抱いていたとしても、それは人間として当然の多面性のひとつであり、簡単にギャップを感じて胸を熱くしないでくれ、と世の女子に釘を刺しておきたい。
よほどの鬼畜でもない限り、誰だって小動物はかわいいものです。
妻のチーにもそういった多面性はある。
彼女の血液型はA型であり、さらに両親や姉弟も全員A型という生粋のA型家系で生まれ育ったからか、その性格の一面は非常に細かく几帳面で、ともすれば神経質でもある。
しかし、その一方で驚くほどルーズかつ間抜けな一面も併せ持っているから、人間はわからないわけだ。
たとえばテレビやエアコンのリモコンがどこかに散乱するなんてことは日常茶飯事であり、ましてや最近のチーは夜な夜な一人でカーヴィーダンス(人気トレーナー・樫木裕実によるエクササイズ)の教則DVDを観ながら踊っているものだから、DVDのリモコンまで部屋のあちこちに放置されている。
当然、自転車の鍵やケータイ電話を家の中で紛失することも多い。
外出前の物探しは山田家名物のひとつだ。
さらに先日はこんなこともあった。
僕が打ち合わせに出かける前、着ていく予定のシャツにチーがアイロンをかけるというので、僕はひとまずシャツをチーに預けた。
チーはそれを受け取るなり、そそくさとアイロンがけの準備を始め、僕はその間に他の身支度を開始する。
身支度が終わったころにはアイロンがけも終わっているという段取りである。
ところが身支度が終わり、いよいよ家を出る時間が迫ってきたというのに、一向にアイロンがけが終了しない。
シャツを渡してから20分は経過したにもかかわらずだ。
不思議に思った僕が状況を訊いてみると、チーは途端に慌てた素振りを見せた。
なんでもアイロンを温めている間、ちょっとネットサーフィンに興じていたらそのまま夢中になってしまい、アイロンのことをすっかり忘れてしまっていたというのだ。
さすがに呆れた。
どこまで間抜けなのだろう。
結局、その日はアイロンを必要としない素材のシャツを着ることにした。
スーツ着用義務の仕事ではなかったことが救いだ。
また、チーがインスタントラーメンを作っていて、どういうわけか汁がすっかりなくなってしまったこともあった。
本人曰く、乾麺を鍋で茹でているときに少し目を離しただけなのに、いつのまにか鍋に伸びきった麺しか残っていなかったらしい。
きっと「少し目を離した」というのは本人のイメージであり、真相は何十分も経っていたのだろう。
とにかくチーは何かひとつのことに気をとられると、その前のことを忘れてしまうという、不器用な面を持っているようだ。
これで手先は驚くほど器用なのだから、本当に多面的だ。
ところで、こういう人間の多面性は、小説や漫画といった作者個人の創作世界では実に細かく描写できたりする。
特にストーリーよりも人物描写に重点を置いた作品は、そこが醍醐味のひとつだ。
いわゆるステレオタイプの人間なんて現実には存在しない。
しかし、ドラマや映画ではこれが少し難しかったりする。
かつて僕が映像や舞台の脚本を書いていたころ、ある役者が自分の役についてこんな悩みを吐露していた。
「脚本をちゃんと読んだつもりなんですけど、演じるキャラクターのつじつまが合わなくて困っているんです……」つまり、こういうことだ。
一般的に脚本には配役の台詞と設定、最低限の動きしか書かれておらず、小説や漫画に比べて人物の情報量が圧倒的に少ない。
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