元首相・衆議院議員鳩山由紀夫氏

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 日本と中国が戦後、国交を正常化したのは1972年9月29日だった。今年(2012年)でちょうど、40周年だ。アジアの2つの重要国が国と国との交わりを回復したことは、長い歴史的な観点からも両国にとって有益だったのみならず、地域の安定にも寄与した。本来ならば祝賀してしかるべき節目の年のはずだが、昨今の日中は尖閣諸島の問題が先鋭化し、とても“友好的”とはいえない雰囲気だ。この日中国交正常化40周年にあたり、中国とのつきあい方をどのように考えればよいのか。元首相で衆議院議員の鳩山由紀夫氏に話を聞いた。今回は前半部分をご紹介する。なお、インタビューは9月19日に行った。

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■日中関係のモデルは、過去を乗り越えた独仏の取り組みにある

鳩山:せっかくの国交正常化40周年なんですけど、こういう状態になって残念です。

……鳩山さんと中国のかかわりについて教えてください。

鳩山:それほど古くから中国とかかわってきたわけではありません。政治家になってからですね。私は祖父、鳩山一郎が創立した友愛青年連盟、現在は日本友愛協会といいますが、その活動にずっと携わってきました。友愛精神を日本に、世界に広げたいということで活動をしています。

 その活動の一環として、中国の方々に日本企業で研修していただくということを行っています。研修を立派に終えて、祖国の発展に寄与してもらうことが目的です。

 考えてみれば、遣唐使の時代には、日本人が命をかけて海を渡り、中国に学びに行ったわけです。現代の中国が新たな形で発展すれば、日本にもプラスになるのです。

……日本と中国が、そううまく行くのかという声もあります。

鳩山:ひとつの例が、戦前からのフランスとドイツの関係です。争いばかりしていた両国が、第二次世界大戦後に欧州石炭鉄鋼共同体を結成しました。最終的にはEU(欧州連合)として結実しました。

 EUについては行きすぎとの批判もありますが、戦争を繰り返していた独仏がともあれ、両国の国益を考え、共に汗を流したわけです。私が東アジア共同体を提唱しているのも、友愛精神により過去の歴史を乗り越えることが、東アジアにとって死活的に大切だと考えているからです。

 総理在任時には中国の温家宝首相、胡錦濤主席とお会いしました。東シナ海を友愛の海にしようと申し出たときには、賛同していただけました。

 私が総理を辞めることを決めた3日前に温家宝首相が来日されました。その時には、温首相の方から、東シナ海のガス田の共同開発を再開させたいとの提案がありました。私が言うつもりでしたが、先方が言い出したのです。これは画期的でした。日中間でも一番難しかったところで、「扉を開こう」と言っていただけたわけです。

 私が総理を辞めることになり、さらにその後、漁船の衝突事件が発生して日中が険悪になってしまった。温首相とは、両国の首脳の間で電話の「ホットライン」を引こうとの話もしていたのです。双方がオープンに話せるようになるはずでした。いろいろなことがうまくいくはずだったのに、残念です。

■幻に終わった日中韓首脳の「キャッチボール」

……温家宝主席と信頼関係を構築できましたか。

鳩山:外交において、首脳の信頼関係は大切です。温家宝首相は、暖かい気持ちを持っている人と実感できました。日本の俳句を中国語化した「漢俳」にも取り組まれ、作品を披露していただきました。なごやかなムードが出来つつあり、懸案解決の兆しを感じていたのですが、急転してしまいました。

 (漁船衝突事件の前の)2010年5月に温家宝首相、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領と会談しました。その際に、日中韓の首脳でキャッチボールをしようという話があったのです。

 ところが、北朝鮮の潜水艦による韓国軍艦の撃沈事件が発生して、そういう雰囲気ではなくなってしまった。北朝鮮に対するスタンスが中国と韓国では異なりましたし、重大な局面で遊んでいるとの批判もでるでしょうから。首相になると、どうしても批判を浴びる宿命がありますからね。

■愛国心をそそる言動は最終的に国益を損ねる

 日本は敗戦後、憲法で、紛争解決の手段として武力を使わないことになったのです。どんなことでも外交努力で解決する。もちろん、領土や主権が侵された場合には、自衛は許されると考えます。ただ、戦争は領土問題で発生することが多いのも事実です。これを避けねばならない。

 特に隣の国については、好き嫌いを超えて、信頼するようにしなければなりません。こちらが本当に信頼すれば、相手も信頼してくれるようになります。ちょうど鏡を見ているようなもので、相手への批判を続ければ、その半分はこちらにはね戻ってくるのです。

 日本は今、残念ながら国力が落ちています。そういう時には、愛国心をそそる言動は歓迎されるものなのですよ。しかし、最後には国益を損ねることになるのです。そのことに、早く気づかねばなりません。

 相手に対して高飛車に接すれば、結果は自分自身に跳ね返ってきます。経済、文化など、いろいろな面で交流を失ってしまう。甚だしい場合には、争いになることだってあるのです。

 結局、日本人として自信と誇りがあれば、相手を信頼することができるはずです。自分自身をしっかり持てれば、相手の言動に対して感情的に反発するのではなく、許すことができる。逆に、精神的なゆとりと自信がないと、相手を信頼できなくなりなす。結果として、自らに不利なことになる。悪い循環が生じることに、早く気づかねばなりません。(取材・構成:如月隼人)