日本の場合はやはり学校を朝休むわけにも行かないし同じようには行きませんが、提携の高校を持つクラブが出てきたりしていますし、日本は日本なりの特別な方法をこれから作り出してくれることを期待しています。逆にブラジルやアルゼンチンはこれまで学業の部分が希薄だったから、クラブ自体に学校ができてそこで勉強をさせるクラブなどもできてきていますよね。それでも、世界のクラブチームの多くは　ユースが練習や遠征など何らプロと変わらない生活が始まるんです。いつトップチームに呼ばれても混乱しないようにできていますよね。

■品格から何から自分が商品だという意識がユース世代から全然違う

僕が最初に高二で向こうに行ったときに、めちゃくちゃたらい回しにされた分、色んなカテゴリーも見ることができたんですけど、クラブの育成カテゴリーにセレクションで入れた選手たちは日本の高校や中学の選手とはちょっと雰囲気が違うんだなと感じました。サッカーの技術とかだけでなく、みんなキリッとしていて態度なども大人なんですよ。もう世界に出して恥ずかしくない選手に教育されているんだって思いました。

欧州クラブの選手はちゃんとしていて、南米はそうではないイメージがあるかもしれませんが、南米でもピッチ内外の振る舞い、そして、品格から何から自分が商品だという意識がユース世代から全然違う。こういったことも歴史というか先輩からも良い教育もされてるんですね。アルゼンチンでは午前中のカテゴリーまでは自分のバッグにタオルや着替えなど道具を全部入れて持っていくわけですが、午前中のカテゴリーなれば小さめのバックにタオルとシャンプーなどを入れてくる。

トップやサテライトになるとパンツまで全部貸してくれるしシャンプーや石鹸も出してくれる。小さなポーチを持っているだけですよ。カテゴリーが上がるだけで荷物が少なくなってくる。アルゼンチンやブラジルはサッカー選手が多いから街中で選手らしい人を見つけたら「お、あいつサッカー選手だ」となるんです。好きでやっている人たちなのかなあ、1部リーグのユースなのかなあ、3部のトップぐらいかななあ、というのが選手のオーラや服装、持ち物、バックの大きさでカテゴリーがわかるんです。

移動するときも日本の子供たちとはちょっと違いますかねえ。コンビニで集まって買い食いしたり、バスや電車でバッグを人にぶつけるなんてことは少ないかもしれませんね。普段から品格を持つように言われていて、クラブの看板を背負っている意識から周りに配慮する姿勢が染みついている。そういうのを先輩が指導するんです。

■サッカーが人を成長させ、大人にさせていく

テベスがボカのトップに来たときは16歳でしたが、服装や言葉使い、ご飯の食べ方までクラブでゆっくり教えてもらっていったのを覚えています。サッカーが人を成長させ、大人にさせるんですよ。こういう教育の部分が海外のクラブっていいなあって思いましたねえ。テベスはサッカーをしてなかったらどうだったかなあ（笑）。でも今では英語もポルトガルもちゃんとしゃべれますし。飛行機だって自分で乗れる。16歳の時には僕らは飛行機で日本から通っているって言ったら、あそこの兄弟はみんな信じていたくらいでしたから（笑）。そういうサッカー以外の教育もあり選手がどんどん世界にでて行けるわけです。

最近の日本でいえば宮市君。こんな例がもっと当たり前になってくれれば素敵ですよね。サッカーの技術もあり海外でも堂々としていられる選手、いつ外に出してもいいような選手を日本のクラブや高校がつくろう、って風潮になれば、さらに日本のサッカーを見る目も変わってくるでしょう。

日本も18歳か19歳という選手がプロでデビューするようになってきましたが、「まだ18歳、19歳だから」なんて甘い考えがあるとプロではやっていけない。アグエロなんて15歳でデビューさせられて、新聞で厳しく評価されていた。ピッチにたてば38歳の選手とも戦わなければならない。それが嫌ならピッチに立つなよ、という話ですから。そして選手としての品格も評価もその時点で評価されるわけですから、選手を育てるってやっぱり深いことですよね。

※構成：鈴木康浩

■亘崇詞プロフィール
1972年、岡山県出身。サッカー指導者・解説者。1991年、単身アルゼンチンに渡り、ボカ・ジュニアーズとプロ契約を結ぶ。高原直泰がボカに加入した際には通訳となる。東京ヴェルディのジュニアユース監督を経て、現在は日テレ・ベレーザのコーチを務める。

■鈴木康浩プロフィール
1978年生まれ、栃木県宇都宮市出身。作家事務所を経て独立。現在はＪ２栃木ＳＣを中心に様々なカテゴリーのサッカーを取材。「週刊サッカーマガジン」「ジュニアサッカーを応援しよう！」などに寄稿している。