OVAで免疫した後、経気道的にOVAを吸入させて喘息反応を誘導したところ、期待通り、アレルギーの指標である気道肺胞洗浄液中への好酸球浸潤や気道過敏性の亢進が、Sox4の過剰発現マウスでは強く抑制され(画像5)、逆に欠損マウスでは症状の亢進が見られた(画像6)。

この実験により、Sox4が個体レベルでもアレルギー反応の抑制に関わっていることが証明されたのである。

画像5は、Sox4トランスジェニック(TG)マウス(過剰発現マウス)では、マウスアレルギー性気道炎症モデルの病態が改善するという様子を撮影した顕微鏡画像と結果をまとめたグラフだ。

詳しくは、まず(A)が、マウス肺の組織学的分析(炎症細胞浸潤)。

Sox4TGマウスでは、細気管支周囲への炎症細胞浸潤が顕著に減少した結果を撮影したもの。

(B)は、Sox4TGマウスでは、アレルギー炎症で誘導される気管支からの粘液産生(矢印の濃い紫色の部分)の亢進が衰弱する結果を撮影したものだ。

(C)は、Sox4TGマウスでは、アレルギー炎症に伴う気道過敏性の亢進が衰弱するという結果をまとめたグラフ。

画像6は、Sox4ノックアウトマウスでは、マウスアレルギー性気道炎症モデルの病態が増悪するという様子を撮影した顕微鏡画像と結果をまとめたグラフ。

(A)は、マウス肺の組織学的分析(炎症細胞浸潤)を撮影したもので、Sox4欠損マウスでは細気管支周囲への炎症細胞浸潤が顕著に増加しするのが見て取れる。

(B)は、Sox4欠損マウスでは、アレルギー炎症で誘導される気管支からの粘液産生(矢印の濃い紫部分)の亢進が増悪するのを撮影したもの。

(C)は、Sox4欠損マウスでは、アレルギー炎症に伴う気道過敏性の亢進が増悪するという結果をまとめたグラフ。

また、研究グループは、Sox4のアレルギー抑制の分子機構についても解析し、Sox4の作用の一部は、Th2細胞の分化とアレルギー疾患発症を制御する転写因子「GATA-3」の機能の抑制を介して発揮されることも見出した(画像7)。

画像7は、研究成果の概略図。

Sox4は、TGF-βによって発現が誘導される一方で、その発現はアレルゲン(抗原)刺激によって低下することが、今回の研究から判明した。

TGF-βと抗原刺激のバランスによって発現が調節されたSox4は、Th2細胞分化のマスター転写因子GATA-3機能を阻害することで、アレルギーの発症を抑えることが今回の研究で新たにわかったのである。

Sox4の作用を促進した場合でも、Th2細胞の機能のみが阻害され、そのほかのThサブセットの機能には、今のところ顕著な障害は見出されてはいない。

また今回の研究成果から、慢性的なアレルゲンの曝露によりTh細胞が持続的な刺激を受け、Sox4の発現が長期間にわたって低下することが、アレルギーの慢性化を引き起こす原因となるといった新たな炎症の慢性化の仮説も提唱できるという。

これらのことから、今後、Sox4やGATA3を創薬ターゲットとして研究を発展させ(画像8)、人為的な発現調節を可能にすることが、新規のアレルギー予防法だけでなく、発症後時間が経過し慢性化してしまった難治性アレルギー疾患の治療法開発につながることが期待されるとしている。