4月26日、NHKの『クローズアップ現代』で「会社を辞めさせてくれない」新たなブラック企業の手口が放送され、大きな反響を呼んだ。同番組によると、社員が「辞めたい」と思っても、退職届を受理しなかったり、懲戒免職にしたりするケースが頻発しているという。

 なぜ、辞めたくても辞められないのか。ひとつには会社と交わした「誓約書」の存在がある。

・歯科助手のCさん(女性)は、半年も前に退職を申し出たのに、病院側が「あなたは“無期限契約”。誓約書へのサインもしているし、勝手には辞められない」と退職を認めなかった。

・美容室を辞めようとしたDさん(女性)の場合は、会社の就業規則にある「退職届の申し出は半年前まで」という一文を盾にされ、辞められなかった。

はたして、こうした誓約書に拘束力はあるのだろうか。「全国一般東京東部労働組合」の須田光照書記長は、法律の前では効力はないと説明する。

「民法627条に従えば、2週間前の通知で辞められます。誓約書や就業規則も法律の前では意味を持たない。持参した退職届が受理されなくても、内容証明郵便で送れば効力はあります」

 また、「辞めたら損害賠償請求する」と脅されて辞められなくなるケースもある。

・ソフト開発会社勤務のEさん(男性)は、あまりの激務に辞意を表明。だが、会社側は「今辞められると人員に穴があくので損害賠償を求めて訴える」と脅してきた。

 こうした場合の対処法について、若者の労働問題を扱うNPO法人「POSSE(ポッセ)」の川村遼平事務局長はこうアドバイスする。

「この手口で多いのは『会社に損害を与えるので、勤務最終月の給与は払わない』と通知してくること。しかも、会社の顧問弁護士のはんこ付き。ビビりますよね。サービス残業ばかりで十分な貯蓄もなく、転職活動をするヒマもない若者は、結局は泣き寝入りしてしまう。それが会社側の狙い。でも、これは労働基準監督署に相談すれば解決できます。会社の求める損害賠償には法的根拠がありませんからね」(川村氏)

 さらに、「辞めるなら離職票は出さない!」と脅されることも多い。離職票は、失業給付を受けるために必要なもの。このケースにも、前出の須田氏は「まったく心配ない」と語る。

「その場合はハローワークから会社側に『離職票を出せ』との指導がいきます。それでも会社が出さなければ、ハローワークが離職票を出します」(須田氏)

 辞められない会社員の心にあるのは、「会社が怖い」という恐怖感と、「自分も悪い」という責任感のふたつ。だが須田氏は、「あなたに責任はない。とにかく退職届を出して、出社しないこと」とアドバイスを送る。

(取材/樫田秀樹)

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