■ドコモのオファーは2007年だった
「ウィ!!ウィ!!ウィ!!」と鳴った瞬間、その場にさっと緊張感が走り、血圧は上昇し、(人によっては)恐怖で体が固まる、あのケータイの緊急地震速報「エリアメール」の警報音。その作者は、なんと“癒やし音楽”の巨匠だった!
「本当に、僕の予想以上に頻繁に鳴ってしまい……。皆さんを怖がらせて申し訳ない気持ちです」
まったくご自分の責任ではないのに、恐縮しながらそう語る小久保隆さんは、1970年代からシンセサイザーと電子音の分野で最先端を走り続けてきた音楽家。ヒーリングミュージックのCDを数多くリリースするとともに、六本木ヒルズアリーナや東京ディズニーリゾート「イクスピアリ」などの空間音楽を手がける「音環境デザイナー」としても活躍中だ。
――そもそもの話なんですが、あのおっかない音って「3・11」以前からあったんですね。
【小久保】ドコモさんから依頼を受けたのは2007年のことです。その年の年末からサービスが開始されたのですが、僕も一度も聞く機会がなくて。そして10年の5月に初めて自分の携帯からあの警報音が鳴って、「どこかで聞いたことがある」と思ったら、自分が作った音でして……。
――そして3・11以降、すっかり日本中の人々が知る音となりました。どういう経緯で小久保さんに依頼が来たんでしょうか?
【小久保】当時、ドコモの執行役員だった夏野剛さん(iモード立ち上げメンバーのひとり。現・ドワンゴ取締役)が僕の音楽のコアなファンで、2005年に呼び出し音サービス「メロディコール」の楽曲を依頼されたのが最初です。92年に出した『TOKYO/騒音美学〜』というCDがあって、山手線のガタンゴトンという音をもとに騒音を浄化するという作品なのですが、これを聴いていた夏野さんから「一日に何度も、相手が電話に出るまで呼び出し音を聞く、そのイライラを解消してほしい」と。その後も、電子マネー「iD」の決済音などさまざまな音を作ってきて、その流れで緊急地震速報音のお話もあったわけです。
■最初は今よりもっと怖い音だった!
――“癒やしの音楽”で広く知られる小久保さんが、あの、一気に緊張感が高まる音をどのように作られたのかが不思議で。
【小久保】警報音と癒やしの音は、対極にある音と思われがちですが、自分の中ではかけ離れた仕事ではないんですよ。“癒やしの音楽家”というイメージは小久保隆の一面で、自分では「人と音の関係を極める、音のデザイナー」であると考えていますから。
――音のデザイナー?
【小久保】僕は、この社会の中で暮らす人たちに必要な音とはどういうものか、ずっと考えてきたんですね。30年近く前から癒やしをテーマにしてきたけど、それも「社会に求められている音」を作ってきたという感覚です。そして今回の警報音も、「社会に必要な音を作る」という意味では一緒。地震が起こり得る社会に生きる人たちに、いち早く危険を伝えなければいけない、と。もちろん、出来上がった音は「癒やしの音」とまったく違う効果を担っていますが。
――この音の制作にはどのくらいの時間を要したんですか?
【小久保】20分くらいですね。
――短いですねー!
【小久保】ただ、その前に3ヵ月近く、日本国内のあらゆる警報音について調べました。地震の警報音に必要な機能、効能は何か? その定義に3ヵ月かかったんです。「絶対に気づく音にしてください」というオーダーもありましたし。例えば、これまで聞いたことのあるような音では注意を喚起できないので、「聞いたことのない音」でないといけませんしね。
自分の中でたどり着いた結論はふたつあって。ひとつは、低音から高音への急激な変化を3回繰り返すこと。これはさまざまな警報音を聞くうち、3回の繰り返しに最も注意喚起力があることがわかったからです。もうひとつは、不自然な音の密度ですね。
「ウィ!!ウィ!!ウィ!!」と鳴った瞬間、その場にさっと緊張感が走り、血圧は上昇し、(人によっては)恐怖で体が固まる、あのケータイの緊急地震速報「エリアメール」の警報音。その作者は、なんと“癒やし音楽”の巨匠だった!
「本当に、僕の予想以上に頻繁に鳴ってしまい……。皆さんを怖がらせて申し訳ない気持ちです」
まったくご自分の責任ではないのに、恐縮しながらそう語る小久保隆さんは、1970年代からシンセサイザーと電子音の分野で最先端を走り続けてきた音楽家。ヒーリングミュージックのCDを数多くリリースするとともに、六本木ヒルズアリーナや東京ディズニーリゾート「イクスピアリ」などの空間音楽を手がける「音環境デザイナー」としても活躍中だ。
――そもそもの話なんですが、あのおっかない音って「3・11」以前からあったんですね。
【小久保】ドコモさんから依頼を受けたのは2007年のことです。その年の年末からサービスが開始されたのですが、僕も一度も聞く機会がなくて。そして10年の5月に初めて自分の携帯からあの警報音が鳴って、「どこかで聞いたことがある」と思ったら、自分が作った音でして……。
――そして3・11以降、すっかり日本中の人々が知る音となりました。どういう経緯で小久保さんに依頼が来たんでしょうか?
【小久保】当時、ドコモの執行役員だった夏野剛さん(iモード立ち上げメンバーのひとり。現・ドワンゴ取締役)が僕の音楽のコアなファンで、2005年に呼び出し音サービス「メロディコール」の楽曲を依頼されたのが最初です。92年に出した『TOKYO/騒音美学〜』というCDがあって、山手線のガタンゴトンという音をもとに騒音を浄化するという作品なのですが、これを聴いていた夏野さんから「一日に何度も、相手が電話に出るまで呼び出し音を聞く、そのイライラを解消してほしい」と。その後も、電子マネー「iD」の決済音などさまざまな音を作ってきて、その流れで緊急地震速報音のお話もあったわけです。
■最初は今よりもっと怖い音だった!
――“癒やしの音楽”で広く知られる小久保さんが、あの、一気に緊張感が高まる音をどのように作られたのかが不思議で。
【小久保】警報音と癒やしの音は、対極にある音と思われがちですが、自分の中ではかけ離れた仕事ではないんですよ。“癒やしの音楽家”というイメージは小久保隆の一面で、自分では「人と音の関係を極める、音のデザイナー」であると考えていますから。
――音のデザイナー?
【小久保】僕は、この社会の中で暮らす人たちに必要な音とはどういうものか、ずっと考えてきたんですね。30年近く前から癒やしをテーマにしてきたけど、それも「社会に求められている音」を作ってきたという感覚です。そして今回の警報音も、「社会に必要な音を作る」という意味では一緒。地震が起こり得る社会に生きる人たちに、いち早く危険を伝えなければいけない、と。もちろん、出来上がった音は「癒やしの音」とまったく違う効果を担っていますが。
――この音の制作にはどのくらいの時間を要したんですか?
【小久保】20分くらいですね。
――短いですねー!
【小久保】ただ、その前に3ヵ月近く、日本国内のあらゆる警報音について調べました。地震の警報音に必要な機能、効能は何か? その定義に3ヵ月かかったんです。「絶対に気づく音にしてください」というオーダーもありましたし。例えば、これまで聞いたことのあるような音では注意を喚起できないので、「聞いたことのない音」でないといけませんしね。
自分の中でたどり着いた結論はふたつあって。ひとつは、低音から高音への急激な変化を3回繰り返すこと。これはさまざまな警報音を聞くうち、3回の繰り返しに最も注意喚起力があることがわかったからです。もうひとつは、不自然な音の密度ですね。
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