「こんな機会は二度とない」と、サッカー日本代表応援ツアーに参加するも、「それだけじゃあ、つまらん!」と、無謀な旅の思い出づくりを敢行した金欠ライターがいる。ツアー費30万円をはたいて挑んだ、3泊4日の北朝鮮ツアー“夜の巻”。そこで見た、北朝鮮の意外な裏側とは?

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■連れていかれたのは怪しい中国料理店

 サッカーW杯アジア3次予選の観戦で北朝鮮を訪れた筆者は、聞き逃せない噂を耳にした。平壌(ピョンヤン)に、“喜び組”クラスの美女と遊べるキャバクラがある……というのだ。現地のツアーガイドに尋ねると、その存在を認めつつも、「今回は集団行動だから」と訪問を許してくれない。北朝鮮を訪れた日本人ツアー客一行は、あらゆる個人行動を禁じられていたのだ。キャバクラへ行くには、ガイドを口説き落とすしかなかった。

 頼むこと3日目、平壌滞在最後の夜。ホテルの自室にガイドを呼び、突然の土下座で懇願した。冷たい床につけた頭の上から穏やかな声が聞こえてくる。

「頭を上げてください。気持ちはわかりました。でも、高いですよ」

 聞けば、日本円で最低3万円かかるという。北朝鮮の物価を考えれば、30万円相当の価値だ。少々予算オーバーなので、ツアー客のH君(27歳・童貞)を“割り勘要員”としてスカウトした。

 11月16日、23時。われわれとガイドを乗せたタクシーが静まり返った平壌市街を走ること10分、人影のない団地街に止まる。平壌には外国人専用キャバクラが2軒あるらしいが、1店目は休業日だった。数分後に到着したのは古めかしい中国料理店。ガイドが店内へ向かったが、先客がいて断られたという。あきらめきれず、「店の中だけでも見たい!」と交渉。ガイドに導かれ、店内へ足を踏み入れた。

 1階は薄暗く、30名分ほどのテーブルとイスがある。店主がひとり紫煙をくゆらせていた。部屋の隅に目をやると、縦2×横1mのガラスケースにコカ・コーラや高級ワイン、洋酒が大量に並べられている。いずれも北朝鮮ではなかなかお目にかかれない代物だ。たばこに火をつけると2階から女のコの歌声が聞こえてきた。

 ガイドが店主を片隅に呼び、3枚の1万円札をちらつかせて朝鮮語でささやく。店主が笑みをこぼした。交渉成立のもようだ。5分後、追い出された中国人客と入れ替わりに2階の個室へ案内される。

 ドアを開けると、4人掛けの深緑色の布製ソファにガラステーブルを挟み、ピンクの丸イスが並ぶ。少し古いが、日本製のカラオケ機もある。キャバクラというより、場末のスナックのようだ。

 ビールを頼み、待つこと5分。「アニョハセヨ〜♪」黒のスーツに身を包んだふたりが、ほほ笑みながらやって来た。膝下から薄い肌色タイツがのぞく娘は瞳が大きく、KARAのジヨン似。黒タイツで大人っぽいもうひとりは、台湾の女優ジョイ・ウォン(『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』で有名)の若き頃を彷彿させる。

 ジヨン似が25歳のヨンちゃん。もうひとりは27歳のスンちゃん。ガイドを介して自己紹介を済ますと、スンちゃんが立ち上がって歌い始めた。ポップな朝鮮語の曲に合わせ、軽やかにステップを踏む。スンちゃんと目が合うと右手を差し出してきた。社交ダンスの動きで小気味よく回転するスンちゃん。美女ダンスチームにいたらしく、巧みにリードしてくれる。

 カラオケのリストには、日本の曲もたくさんあった。ガイドが歌う長渕剛の『乾杯』を聴きながら、爆風スランプの『大きな玉ねぎの下で』を入力。時折、足を組み替えるしぐさがなまめかしいヨンちゃんをダンスに誘う。間近で熱唱すると、うっとりした表情を見せてくれた。