武藤に関してはDFラインの裏への飛び出しという目に見えた特長のみならず、厳しい指導を受け続けた結果、常に意欲的で真面目な姿勢でサッカーに取り組んでいる部分が都丸スカウトや手倉森監督に評価されていたのだ。

■サイドハーフ起用でプレーのバリエーション広がる

しかし、仙台のFWの層は厚かった。マルキーニョスが第1節のみの出場で契約解除となったものの、残ったFWは6人。しかも震災後の中断明けからMF太田吉彰がFWとして活躍するようになり、実質的にFWは7人。出場への道は遠かった。第10節C大阪戦で初のベンチ入りを果たしたが、その後はベンチ入りも難しい状況だった。赤嶺真吾、太田らがコンスタントに結果を出し続ける状況下で、なかなかベンチメンバーに入り込む隙はなかった。

そんな中手倉森監督は練習試合や紅白戦で武藤をサイドハーフで起用するようになった。そして、夏頃から武藤はコンディションが上昇し、練習試合や紅白戦でゴールをコンスタントに決め始め、夏場はチームの調子が下降線を辿ったこともあり、サポーターからは武藤待望論も出た。8月中旬手倉森監督は武藤について「シーズン半ばを過ぎて彼の良さを理解する周りが良いコンビ−ネーションで武藤を生かせるようになってきた。武藤も自分を出せるようになってきた。ボールのない時のDFラインの裏への飛び出しが彼の特長だが、トレーニングを重ねてきて、それだけではなくて相手のディフェンス間でボールを受けてドリブルで仕掛ける所が身についてきた。紅白戦や練習試合でサイドハーフをやらせたことが良い方向に向いてきた」と評価した。武藤はサイドハーフを経験したことにより、DFラインの裏に抜けるだけでなくプレーの幅を広げていった。これを評価した手倉森監督はようやく7月末以降、武藤をベンチ入りさせ始めるようになった。

試合展開の影響でなかなか試合出場に至らなかった武藤であったが、9月に出場機会をつかんでからは、次々と結果を出した。活躍の裏には試合に出られなかった時期、プレーの幅を広げるための武藤の懸命な努力があったのだ。

■貪欲さと真摯さ、佐藤寿人と重なるイメージ

天皇杯2回戦ソニー仙台戦後、都丸スカウトに武藤の評価を聞くと「点は取ったが、ミスは多く課題がある。自分の中でも通用できるプレーと課題は分かっているだろう」と、あくまで冷静だった。しかし、武藤のあるプレーについてこう評価した。「PKの場面で倒された後、プレーを続けようとした点は評価したい。あそこでファールをアピールするような選手だったら僕は彼を取っていない」確かに武藤はソニー仙台DFに倒された後、再び立ち上がってゴールに向かってドリブルを続けようとした。その姿勢を都丸スカウトは最大限に評価した。これこそが武藤のメンタリティの素晴らしさであろう。ゴール前で転んだら「ファールを取ってやろう」とするのではなく、あくまで「ゴールに向かおう」とするメンタリティこそが、武藤最大の魅力だ。ゴールに貪欲でサッカーに真摯だからこそ、サポーターは武藤に魅せられ、貪欲にゴールを狙い、常に真摯にサッカーと向き合うかつての佐藤寿人とイメージをだぶらせているのだろう。

まだまだ課題は山積みだ。オフザボールの動きの質であったり、前線からの守備であったり、攻守両面でまだ発展途上の選手である。先発出場を勝ち取るには、まずは途中出場でゴールを決め続けることだろう。ここまではある程度勝負が決まった段階での投入や、JFLチーム相手の試合での投入であり、周りも武藤を使ってくれるお膳立てが整った状態でゴールを決めてきたが、今後は自分で厳しいマークをかいくぐり、苦しいチーム状況の中でゴールを決めていかねばならない。残り4試合優勝争いをしているG大阪をはじめ広島、浦和、神戸といった厳しい相手と対戦する。終盤苦しいチーム状況になる試合も当然あるだろう。そこで試合に出てゴールを決めれば、常時ベンチ入り、さらには先発出場に近づく。また、天皇杯のようなリーグ戦とは違う大会もアピールのチャンスだろう。