2011年3月にアメリカで開催されたCTIA Wireless 2011、世界各国から出展する大手企業の中に、日本の端末メーカーとして京セラ(KYOCERA Communications)の名前があった。北米で同社は京セラのブランドで携帯電話を販売するほか、買収したサンヨーブランドの製品も販売している。CDMA2000方式に対応した製品を手がけており、消費者へはSprint Nextelなど通信事業者を経由して販売されている。

京セラブースに並ぶ端末は、ほぼ全てが北米市場向けに開発されたものであり、日本で見慣れたものとは異なるものばかりだ。2010年春に発売された、同社の北米向け初のスマートフォンである「Zio」も誇らしげに展示されていた。このZioは販売事業者からAndroid OS 2.2へのアップグレードもアナウンスされており、まだまだ現役で使用できる同社のフラッグシップ端末でもある。

Zioはストレート形状のオーソドックスなスタイルのスマートフォンだが、同社は他に横に開くことでQWERTYキーボードと横向きディスプレイが現れるフィーチャーフォンの「INCOGNITO」や、アメリカ国防省のMIL-STD-810規格に対応した防水防塵耐衝撃性を備えた折りたたみ携帯電話「TAHO」など特徴的な製品も揃えている。この2機種は他メーカーには無い形状や機能を備えていることから北米市場でも一定の存在価値を示しているようだ。
京セラのスマートフォン新製品、Echo
そして今回の展示会で大々的にアピールされていたのが新製品の「Echo」である。同社では2機種目となるAndroidスマートフォンだが、ディスプレイを2枚備えたユニークな製品だ。発売は4月から、Sprint Nextelから199ドル(契約込み)で販売される予定とのこと。

Echoは一見すると3.5インチ800x480ピクセルのタッチパネルを供えたストレート形状のスマートフォンだ。だがディスプレイ部分を持ち上げていくと下からもう1枚、同じサイズのディスプレイが現れる。2枚のディスプレイは完全にツライチまで開くことが可能だ。この状態で画面表示は全体で1枚となり、4.7インチ、800x960ピクセルの大型ディスプレイとして利用できる。
上のディスプレイを開き2枚目のディスプレイと組み合わせることができる
そして上側のディスプレイは25度程度開いた位置で固定することも可能。この状態は小型の横開きスタイルとして使うことができる。さらに2枚の画面は別のアプリケーションを表示することもできる。上側画面でスケジュールを確認しながら下側画面でメールを書く、あるいは下側画面で写真ギャラリーを開きアップロードする写真を選択、上側画面はFacebookにしておく、等といった使い方が可能なのだ。

最近のスマートフォンは基本的にマルチタスクだが、大型ディスプレイを搭載したタブレット端末であっても表示画面は1枚だけだ。すなわちタスクを切り替える場合は画面の切り替えも必要である。ところがこのEchoなら、2つの画面を同時に開き2つのタスクを並行処理することができるわけである。

ディスプレイを自在に稼動できるEchoのギミックはそれだけでも十分特徴的だ。だがギミックだけでは消費者はすぐに飽きるだろう。しかしEchoを実際に使ってみると、利用スタイルに応じて3つの形状=ストレート/大画面/2画面=を使い分けられる上に、それぞれの形状が快適に利用できる点が快感になってくる。

例えば歩きながらストレートスタイルで片手でメールをチェック、車で移動中に座りながら大画面で読書、オフィスでは机の上では角度をつけた2画面状態にしてマルチウィンドウを利用、といった具合に3台の端末が1台に収まったかのような使い方ができるのである。
2つの画面で違うアプリケーションを利用できる
Echoの設計開発思想のベースにあるのは「使いやすさの追求」であり、その結果がディスプレイを稼動するという形状になったのではないだろうか。そしてその無理難題を製品化してしまうあたりは日本メーカーが最も得意とする点だろう。しかもこれだけ複雑なギミックを製品に搭載するにはそれなりの耐久性や精度が必要だ。Echoの可動部分は動きもグラツキが無くしっかりしており安心して使うことができそうだった。

携帯電話やスマートフォンの高性能化が進む中で、各社は高スペックなCPUや大型ディスプレイ、高画質カメラの搭載を惜しげもなく進めている。だが高機能なパーツを組み合わせたからといって、それが消費者に最高な体験を与える製品になるとは限らない。画面に触れた瞬間のアイコンの反応速度、ボディーの質感、果ては重量バランスなど、製品の良し悪しを決めるのは数字上の機能だけではないのだ。


Echoのスペックは最近のハイエンドスマートフォンと同等であり、そのギミックについ目を奪われがちだが、実は現状の各社が販売するスマートフォンには無い使いやすさと、新しい体験を提供できる意欲的な製品であるのだ。

このEchoのようなコンセプトを持った製品であれば、激化するスマートフォン市場の中でも十分勝ち残ることができるだろう。Echoのような製品が他の日本メーカーからも海外市場で登場することに期待したい。

山根康宏
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