――神楽坂さんと梶原さんの女性陣についてはいかがだったでしょうか?

黒沢:神楽坂さんとひかりちゃんは、設定上、親子の役なんですよね。撮影が終わった後も、親子というより友達関係で話している姿を見た時に、いつもでしたらその仲間に入りたいなと思って、声を掛けたり傍に行ったりしていました。でも、今回はこの『冷たい熱帯魚』というものに関わって、さらに“愛子”という役をいただいた時に、あの二人が仲良くなっていればなっている程、「ふーん」という感じでいて、なんか引いてほくそ笑んでいる自分がいて、敢えて入ろうとしなかったです。“愛子”が抜けていなかったのですね(笑)。それで、クライマックスのシーンが終わった時に、急に自然と「ねえ、ねえ、ねえ、ねえ」と話しに行った自分がいました。初めてでしたね(笑)。

――そこまで役になりきっていたのですね。

黒沢:そうですね。自分の中では、意識はないけど。現場は常に楽しいし、集中できるし。綺麗にも撮っていただけるし(笑)、一緒に出演してくださる皆さまが暖かい言葉を掛けてくださって気遣いもしてくださるし、本当に心身共に健全な状態で取り組めていて…でも、そんな感情は初めて。不思議な体験でしたね。ほくそ笑んでいる自分が何故だろう?おかしいな?と(笑)。

――今は抜けていますか?

黒沢:抜けています。抜けていますって(笑)。今、残っていたら長いし、怖いですって(笑)。

――今作に出演して何か変化はありましたか?

黒沢:この『冷たい熱帯魚』を終えて一番の変化は、心身共に落ち着きました。腰が座りました。私は、夫も子供もいて、家庭を持つという面では普通の女性の人生を送っています。でも、その家庭から離れた女優という仕事も持っていて、「黒沢あすか」と言う名前で一人の女性を演じさせていただいている。今までは、一つの作品を重ねていく毎に「この映画の評判はどうだったのだろう」「自分の評判はどうだったのだろう」と考えちゃいけないと思えば思う程、そういうことが気になってとらわれていました。目標も据えていて、もっとその先へもっとその先へと向上心を持つことは良いことだけど、自分の進む道に歯止めかけているのではないかと思いました。さらに深く追求していくと、平常心を保っていて日々の自分の生活を真っ当に誠実に生きていたら、特に何もすることはなく、それが自然と女優の仕事に繋がって結果が出ると分かっているけど、自分の気持ちとサイクルが合わないと何かしなくてはと思いあくせくしてしまう自分がいました。だけど、この『冷たい熱帯魚』は本当にとことん演じることができたので、やり尽くしてしまったんです。だから終わって全部つながったものを観た時に、落ち着くことができたのです。内容はとても残虐だけど、でも私に降ってきた気持ちはそういうものでしたね。ようやく年齢と行動と精神的なものが合わさってきたと。一つの転機ですね。本当にそう思います。

――最後に、この映画をこれから観る方へメッセージをお願いします。

黒沢:『冷たい熱帯魚』は1月29日公開です。「生きているか?」「自分の周りの人間を幸せにしているか?」「みんな愛し合っているか?」と投げかけてくる映画だと思います。ですから、残虐的なシーンも多々ありみたいに言われていますが、そういう情報に惑わされたりせずにとにかく観てみてください。観終わった後に「自分は生きているな」と思い、今後の生き方を考えるきっかけになると思います。

 映画『冷たい熱帯魚』のリレーインタビュー第1回目。黒沢あすかからは、女優人生の深みや私生活から滲み出る演技の話など、流石はベテラン女優とも言える話を聞くことができた。次のリレーインタビューの相手は「梶原ひかり」。フレッシュな意見が聞けそうである。黒沢あすかから梶原ひかりへ渡された質問は「ご両親にこんなことをして困らせたということはありますか?」というもの。どんな答えが返ってくるか楽しみだ。次回は、1月20日にlivedoorニュースで掲載する。

園子温監督作品「冷たい熱帯魚」公式サイト