岡田監督は「コンセプト」にこだわった。徹底的と言っていいほどに。相手によって戦い方を変えることはせず、自分たちのサッカーの精度を高めることに力を注いだ。
「２０１０年のＷ杯でベスト４に入るためのコンセプトを作っているわけです。じゃあ、次はオーストラリアとやるからこうしよう、と変えることはないんですよ。相手に合わせてそこそこのゲームをしても、何も得られないと僕は思う。これをやり続ける、言い続ける、そして本気でベスト４を狙おうと問いかけ続ける。ブレることなくやり続ける。それしかないと思っているんですよ」
相手のキーマンを潰すために、マンツーマンをつける。相手の長所を消し去るために、システムを変更する。得点が欲しい終盤にパワープレーを仕掛ける。どれも現実的な対処法である。
それらすべてに、岡田監督は「×」印をつけた。「真っ正面から戦い抜くことで、自分たちに何ができて何ができないのかが分かる。策を弄してカウンター一発で勝ったとしても、Ｗ杯で通用すると選手は考えない」という思いからだった。
しっかりとパスをつなぎながら、できるだけ多くの選手が攻撃にも守備にも絡んでいく「コンセプト」が、効率の悪さを印象付けることは少なくなかった。シュートが打てるシーンでパスを出してしまうまどろっこしさはお決まりのようになり、ボールポゼッションの高さが相手への脅威に結びつかない。国内のテストマッチで快勝するものの、アウェイやセントラルでは内容の伴った結果をあげられないゲームが繰り返された。
それでも、岡田監督はブレなかった。自らへの風圧が強まっても、コンセプトの成熟へ向けて突き進んでいった。
コンセプトの起点となるのは、「日本人にはできない」という既成概念を疑うことであり、「日本人だってできる」という前向きな発想である。「日本人の良さを発揮して世界を驚かす」という野心は、オシムが語った「日本サッカーの日本化」から外れるものでもない。方法論が違うだけである。
だからこそ僕は、岡田監督のチーム作りを支持してきた。たとえ世界を驚かせなかったとしても、このチームの着地点は今後の日本サッカー界にはっきりとした課題や指針を提示することになる、と思ったからである。
「あまりに力の差があったら、相手に合わせなきゃいけないこともあるかもしれない。しかし僕の想定のなかでは、ある程度いけると思っているんですけどね。というのは、そのために作ったコンセプトですから」
Ｗ杯開幕のほぼ１年前に聞いた言葉を思い出すたびに、僕は失望を禁じ得ない。Ｗ杯を戦い終えた岡田監督は、「ブレてはいなかった」といった趣旨の発言をしているが、メンバーを変え、システムを変えたＷ杯のサッカーのどこに、それまでのチーム作りの痕跡を見つけろというのだろう。僕には理解できない。
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