――他のアーティストのカバーって、自分の個性を出さなければならない一方で、原曲のファンのイメージも壊さない様に気を付けたりと、自分のオリジナルよりも気を遣う部分もあるかと思いますが、その辺は如何ですか?

広瀬:そうですね。自分の声を通して、どんな気持ちで皆さんにこの曲達を届けていくのかは持っておかなければいけないなと思っていました。やっぱり、みんなの宝物になっている名曲を扱うわけですから、「自分が歌っているんだ!」とか「私が歌わせて頂いている」とかよりも、レコーディングでずっと思い続けていたのは「みんなと一緒に合唱している」ということ。「私が歌う後ろでは、リスナーの皆さんが一緒に歌ってくれているんだ」「みんなの宝物を、私も一緒に歌わせてもらっている」という気持ちで歌おうという所に着地しました。

なので、今回はあまり私の歌い方とか、フェイクを沢山入れたりとかは一切していませんし、1番は聴いて頂いたとしても2番からリスナーの皆さんが口ずさんでもらえたら、私の中では成功だなと思っていますので、「もっとこの曲達をみんなで一緒に歌いたい」という気持ちで歌わせて頂きました。

――男性が歌われている曲が多いですが、その中で特に苦労された曲はありますか?

広瀬:「名もなき詩」は、長くて大変だったというのはありましたけど(笑)。男性の曲をこれだけ歌うことは本当に生まれて初めてでしたので、すごく勉強になったのは、男性のアーティストさんの曲の作り方が分かったというか。男性のアーティストさんは、作詞ありきで。男の人は本当にロマンチックだなと思って(笑)。詞を、言葉を伝えたいがために、照れるからメロディーを乗っけるというのがもう典型的なパターンで。

「I LOVE YOU」と言葉で言えないから、「I LOVE YOU〜♪」って歌っちゃった尾崎豊さんみたいな(笑)。男の人の作り方が、歌ってみたからすごく分かったというか。浜田省吾さんもそうですし、小田和正さんもこんな「ラブ・ストーリーは突然に」みたいな「何から伝えればいいのか〜♪」なんてことは、多分メロディーなくしては言えなかったと思うんですよね(笑)。だけど、メロディーに乗っけて言えちゃうから、言っちゃったというような。男の人にとって、曲というのはもう全てラブソングなんだなと。もう女の人のために、女性にモテるために、女性に「僕を見て」と言うために。

――確かに、男性が中高生でバンドを始めるきっかけは、女性にモテたいとか、そういうノリが多いことは否めませんね(笑)。

広瀬:そうそう。不純というか、そういうことの延長に音楽があって。プロになられてからも、その作り方は変わっていないんだということを、練習したり、解釈したり、分析したりしている内にすごく分かったというか。ただ、女の人は、「曲は曲、詞は詞」「だけども、ここのメロディも聴いてよ」みたいな所もあって、「あなたのことも好きなのよ」って、私達の身体はちゃんと分けられるんですよね。一本という男の人の不器用さは、本当にすごくロマンティックに伝わるなと。今回このアルバムを作らないと、全然感じられなかったことだったので、非常に勉強になりました。そこがすごく良かったなと思っています。