2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪で金メダルを獲得した柔道男子66kg級の内柴正人選手が、8月12日に出演したイベント「柔道世界選手権男子代表壮行会」の内容に苦言を呈している。その矛先はイベント自体というよりも、フジテレビの“演出”の仕方に向けられているようだ。
このイベントはフジテレビ開局50周年記念イベント「めざせ!お台場合衆国2009〜フジがやらなきゃだれがやる!〜」のステージで行われたもの。8月26日からオランダのロッテルダムで開幕する柔道の世界選手権に出場する男子代表の内柴選手をはじめ、100kg超級の棟田康幸選手、100kg級の穴井隆将選手、90kg級の小野卓志選手ら7選手と篠原信一監督が参加し、世界選手権に向けての抱負などを語っていた。
イベントの様子はスポーツ紙やフジテレビのニュース番組などでも取り上げられ、会場に詰めかけた子どもたちとのやり取りが紹介されるなど、終始和やかなムードに包まれていた……かと思われたが、実際に出演していた内柴選手の心中は穏やかではなかったようだ。
内柴選手が公式ブログに更新したエントリー「あ〜あ、」は、「今日のイベントのグチを書いてましたが消しました。うん、グチはね」から始まる。この一文だけでも相当な不満があったことが推察されるが、ブログに書くことを踏みとどまったと前置きしたにも関わらず、どうしても言わずにはいられなかったのか、「アナウンサーに背負い投げをかけさせられたのには参ったね」と一言。
イベントでは子どもから「柔道で一番難しい技は何ですか?」との質問に穴井選手が「僕は背負い投げが一番難しいんじゃないかなと思います」と答え、内柴選手が柔道着を着たフジテレビの平井理央アナに、背負い投げをかけるというシーンがあった。このシーンはテレビでも「(内柴選手が)得意の背負い投げを披露した」「世界極めた背負い投げ、子どもたちには、いい思い出となった」とのナレーション付きで放送されている。
しかし、内柴選手は本当は素人を相手にこうしたパフォーマンスはしたくなかったようで、「人前だしアナウンサー素人だし」「も〜、技かけたら写真撮られたし『見てんじゃね〜よっ!』『撮ってんじゃね〜よ』と言いたいが、ステージに立ってんのは僕らだからね」と、不満を抱きつつも、そこは大人の対応で乗り切った模様。また、「得意の背負い投げ」と紹介されたことについても「背負い投げ!!……得意じゃねぇよ」と完全に否定している。
ただ、内柴選手はテレビ局が応援してくれること自体は「ありがたいですけどね。感謝感謝」ともつづっており、決してイベント自体には否定的な立場ではない。あくまでも、その演出や企画の内容が不満の残るものだった、というわけだ。
テレビ局によるスポーツのイベント化や過剰演出を疑問視する声も多い昨今。競技にスポットライトが当たること自体は選手たちも「大切」と理解していても、真摯な気持ちで競技に臨む選手の中には、そうしたテレビ局の意向に困惑してしまう人がいることは想像に難くない。選手の気持ちとテレビ局の思惑。優先されるべきはどちらなのか、どのように折り合いを付けていくのか、そろそろ真剣な議論が必要な時期に来ているのかもしれない。