2002年のサッカー、ワールドカップ(W杯)日韓大会直前、骨折によって出場が絶望的とされていたイングランド代表MFデビッド・ベッカム選手が使用し、出場に間に合うまでに回復したことで注目を浴びた「ベッカムカプセル」こと「高気圧カプセル」。カプセル状の密閉空間に高気圧の空気を送り込む装置で、疲労回復に効果があるとしてプロだけでなくアマチュアのスポーツ関係者も続々と使用している。しかし昨年6月、北京五輪を前に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が使用自粛を呼びかけたことで、スポーツ界が混乱していた。
一般的に「酸素カプセル」と呼ばれるものは、酸素濃度と気圧を高め一酸化炭素中毒などの治療に使う医療機器の「高圧酸素カプセル」(HBO)と、気圧のみを高める健康増進機器の「高気圧カプセル」(HBA)の2種類がある。JADAが昨年6月に使用自粛を通達を出したのは、「高圧酸素カプセル」のほうだった。これは、2008年の世界アンチ・ドーピング機関(WADA)禁止表に「酸素摂取や酸素運搬、酸素供給を人為的に促進すること」という文が含まれており、JADAが「違反の恐れがある」と判断したためだ。
しかし、健康増進用の「高気圧カプセル」については明確な説明がなかったため、現場は混乱。日本オリンピック委員会(JOC)や高校野球連盟などは使用を控えたが、ベッカム選手に続いて06年夏の甲子園で早稲田実の斎藤佑樹投手(現早稲田大)が使用したことから利用者が急増しており、それに伴って問い合わせも増えていた。
さらに昨年10月、「高気圧カプセル」の業界団体、日本国際健康気圧協会がWADAに対して質問状を送付し、WADAは同年11月に「競技力を増強するという証明はない」「禁止される手段と考えられる基準は満たしていない」(毎日新聞より)と回答。これを受けてJADAも再検討を行い、「WADAが現時点で使用効果がはっきりしないから禁止しないとしており、それに従う」(共同通信より)として「高気圧カプセル」の使用を認める運びになった。
昨年12月に「高気圧カプセル」を販売する米国の業者がJADAを相手に約10億円の損害賠償を求める提訴の構えを見せるなど、2つのカプセルの存在が混同されたことで問題が大きくなっている。米業者もJADAが公式見解を示せば提訴しない意向を示しており、今回の発表によって混乱が収まる見込みだ。
Jリーグの札幌が昨年、500万円でカプセルを導入した途端、JADAの通達を受けて使用自粛を余儀なくされるなど、混乱に巻き込まれた例は多数報道されている。スポーツ選手だけでなく、ミュージシャンでも使用することの多くなったこの「高気圧カプセル」。科学的な裏付けはないものの疲労回復の効果が大きいとされているだけに、スポーツ団体を中心に導入が一般的になっていくのは間違いないだろう。