「私の方からアドバイスをするということはないですが、悩みを持っている選手に相談されると、自分の経験から学んだことを話しています。傍から見ていて、余りにも考え過ぎているなと感じたときは、私の方から話しかけることもありますが、選手が落ち込む原因のほとんどは成績が良くない時ですから、そういうメディアとは関係のない話をします。
それに今の選手って、本当に取材慣れしているので。他のスポーツでも、10代の選手のインタビューの受け応えを見て、なんてしっかりしているんだろうって(笑)。それこそ、彼らの精神的な強さの表れじゃないでしょうか。注目されている選手ほど、勝って結果を残していますよね」

――日本の水泳界が岩崎さんの活躍後、強化する世代の年齢を少し上げたのは、やはり岩崎さんや、長崎宏子さんの経験を踏まえてのことなのでしょうか。

「バタフライの中西悠子選手は私の3歳年下で、北島康介選手や中村礼子選手は4歳違いですが、同い年の選手で、彼女たちと同じ時期に競技を行っていた人はいくらでもいるのですが、引退するのが早かったので、私は彼女たちとは同世代ではないんですよ。ただ、彼女たちと私は違う道を歩んできたのですが、水泳という同じスポーツ、同じ競技をやっているので、私が役に立てることがあればベストを尽くしたいです」

――日本の水泳の強化方針の成果が、アテネ世代といわれる岩崎さんが名前を挙げられた選手たちで、北京オリンピックの展望も、当初は非常に明るいものでした。

「そうですね、アテネからここまで相当タイムが縮まっています。日本の水泳界も、競泳委員会でジュニアの時代、小学生から中学生、高校生、大学性と強化方針が考えられていて、大学生とその後の選手の強化というのは、あまりなかったです。それが、大学生以降も記録が伸びる選手が多くなってきたので、強化の仕方を考えないといけないという指針の下、行ってきた強化の結果だとおもいます。それでも、もう少し、欧米、豪州のように若い選手が出てきてほしいですね」

――それは一度トップになった選手の境遇がよくなり、下の世代がそこまで環境が整っていないということなのですか。

「それはないですね。しっかり、環境は整備されています。問題はトップ選手の強さに対して、腰が引けて、若い選手やそのコーチが勝つことを諦めてしまっているような部分があることでしょうね。しかし、トップ下にいる選手たちに勝つチャンスを与える場が増えていると思います。」

――そのトップ下の選手が乗り越えないといけないトップの選手たちですが、今、英国スピード社の水着問題で揺れています。岩崎さんが、現役であれば、やはりあの水着を着てみたいですか。

「私の時には、自分の好きなメーカーすら選べなかったんです。『この水着を着なさい』ということで。そのあと、3社から選べるようになりました。その事実だけで、私からするとものすごい変化なんです。もちろん、選手は自分が一番良いパフォーマンスができる水着を身につけたいと思っているはずだし、必要なことです。そのことについて、連盟がどう対処し、結論を下すかですね」

――それは連盟の出した結果に従うしかないということですか。

「従うしかないというよりも、精神的な問題だと思うんです。不安になってしまうと、記録にも影響がでる可能性がありますよね。だから、どういう状態で選手が一番自信を持ってスタート台に立てるのか。そこが、大切だと思います」

――では、バサロの距離が縮まったように、スピード社には縫い目を×個所入れなさいとか、レギュレーションで規定できないものなのですか。

「バサロは、子供が真似をすると危険ですので。ハイリスキーな泳法で、トップスイマーでも無理をすると危ないんですよ。ブラックアウトといって、急に意識を失い、意識が戻った後でも、そのことを覚えていない症状に陥ってしまう危険性もあります」